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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-14.
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「わかっている」
代わりに口にしたのは素っ気ない返事だった。
もう一歩、足を前に進める。
先ほどよりも恐怖感が薄れているのはなぜだろうか。
(僕がやらなければ)
匿われている人の名を当てるように言われたのは、春博だ。
しかし、春博には人の気配だけで名を当てることはできない。
神社に出入りしている人間でさえも、顔を見なければ名を思い出せない。
(僕が頼まれたことなのに)
それなのにもかかわらず、春博は当然のように香織に役目を押し付けてしまった。
香織が、頼まれてしまえば断ることができない性格だと知っているからこそ、有無を言わせることなく、名を当てる役目を任せてしまった。
それを心の奥底で悔やむ。
付き人として役に立つことを証明する機会だった。
それを自らの手で逃すような真似をしてでも、旭の役に立ちたかった。
「た……、だれ……か」
途切れ途切れの声がお堂から洩れている。
隠すつもりはないのか。
それとも、弥生は匿っている人に対してそれほどに興味はないのか。
(これ以上、近づけば標的になる)
お堂には目がない。
しかし、中に潜んでいる弥生には春博の動きが伝わっているのだろう。
旭がからかうように振り回していた両手の動きが止まった。
「だれ、か」
はっきりと声が聞こえた。
「ああああああああああああああああっ!!」
狂った声が聞こえた。
発生源はお堂ではない。お堂の扉から出ている両手から発せられている。
「ああああああああああああっ!!」
お堂から溢れる妖気は禍々しいものに変わる。
様々な感情が入り混じったその妖気を浴びると吐き気がする。
代わりに口にしたのは素っ気ない返事だった。
もう一歩、足を前に進める。
先ほどよりも恐怖感が薄れているのはなぜだろうか。
(僕がやらなければ)
匿われている人の名を当てるように言われたのは、春博だ。
しかし、春博には人の気配だけで名を当てることはできない。
神社に出入りしている人間でさえも、顔を見なければ名を思い出せない。
(僕が頼まれたことなのに)
それなのにもかかわらず、春博は当然のように香織に役目を押し付けてしまった。
香織が、頼まれてしまえば断ることができない性格だと知っているからこそ、有無を言わせることなく、名を当てる役目を任せてしまった。
それを心の奥底で悔やむ。
付き人として役に立つことを証明する機会だった。
それを自らの手で逃すような真似をしてでも、旭の役に立ちたかった。
「た……、だれ……か」
途切れ途切れの声がお堂から洩れている。
隠すつもりはないのか。
それとも、弥生は匿っている人に対してそれほどに興味はないのか。
(これ以上、近づけば標的になる)
お堂には目がない。
しかし、中に潜んでいる弥生には春博の動きが伝わっているのだろう。
旭がからかうように振り回していた両手の動きが止まった。
「だれ、か」
はっきりと声が聞こえた。
「ああああああああああああああああっ!!」
狂った声が聞こえた。
発生源はお堂ではない。お堂の扉から出ている両手から発せられている。
「ああああああああああああっ!!」
お堂から溢れる妖気は禍々しいものに変わる。
様々な感情が入り混じったその妖気を浴びると吐き気がする。
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