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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-13.
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「わかった」
香織を守るのは、付き人の春博の仕事である。
仕事ならば自身の人に対する想いを押し殺す。
それすら出来ないのならば旭の傍には居られない。
(すべては旭様の為にすることだ)
春博は自分自身に言い訳をする。
正しいことをしているのだと言い聞かせる。
「僕が盾になろう。僕の後ろをついてこい」
刀を構え直す。
旭が弥生をからかうかのようにお堂の上にいる為、巨大な両手の標的から春博たちは外れている。
「声の主がわかったのならば、腹の底からその名を叫べ」
足を一歩前に出す。
距離を縮めれば、巨大な両手は春博たちを叩き潰そうとするだろう。
「が、がんば、ります」
香織の声は恐怖で震えていた。
「春博さん」
震えながらも、香織は春博の名を呼ぶ。
「無理、しないで、くださいね」
心配無用だと素っ気なく言い返されるかもしれない。
そんなことを考えながらも、口にしてしまった言葉なのだろう。
(人に心配されるなど気持ちが悪い)
背中がぞくぞくする。
吐き気とは違う。ただ、受け入れたことのない感情が心をかき乱す。
(でも、それを口にすれば、こいつは泣くだろう)
春博の背後にいるのは香織だ。
霊視の才が飛び抜けているのにもかかわらず、役に立たない、出来損ないだと影口を叩かれ、一族の多くから存在を否定され続けた子どもだ。
否定され続けても泣くことしかできなかった。
心を傷つけられても、助けを呼ぶことができなかった。
そんな香織の姿を春博は誰よりも知っている。
それを思い返し、春博は喉の奥から出そうになっていた言葉を飲み込む。
香織を守るのは、付き人の春博の仕事である。
仕事ならば自身の人に対する想いを押し殺す。
それすら出来ないのならば旭の傍には居られない。
(すべては旭様の為にすることだ)
春博は自分自身に言い訳をする。
正しいことをしているのだと言い聞かせる。
「僕が盾になろう。僕の後ろをついてこい」
刀を構え直す。
旭が弥生をからかうかのようにお堂の上にいる為、巨大な両手の標的から春博たちは外れている。
「声の主がわかったのならば、腹の底からその名を叫べ」
足を一歩前に出す。
距離を縮めれば、巨大な両手は春博たちを叩き潰そうとするだろう。
「が、がんば、ります」
香織の声は恐怖で震えていた。
「春博さん」
震えながらも、香織は春博の名を呼ぶ。
「無理、しないで、くださいね」
心配無用だと素っ気なく言い返されるかもしれない。
そんなことを考えながらも、口にしてしまった言葉なのだろう。
(人に心配されるなど気持ちが悪い)
背中がぞくぞくする。
吐き気とは違う。ただ、受け入れたことのない感情が心をかき乱す。
(でも、それを口にすれば、こいつは泣くだろう)
春博の背後にいるのは香織だ。
霊視の才が飛び抜けているのにもかかわらず、役に立たない、出来損ないだと影口を叩かれ、一族の多くから存在を否定され続けた子どもだ。
否定され続けても泣くことしかできなかった。
心を傷つけられても、助けを呼ぶことができなかった。
そんな香織の姿を春博は誰よりも知っている。
それを思い返し、春博は喉の奥から出そうになっていた言葉を飲み込む。
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