64 / 78
第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-12.
しおりを挟む
しかし、人間相手にそこまでの対応をする必要があるのか。
春博にはわからなかった。
「……ぅ」
お堂からか細い声が漏れた。
狐火に取り囲まれてもお堂は燃えない。
燃えるのはお堂の入り口から伸びている巨大な両手だけだ。
「ぁ」
また、小さな声が聞こえた。
旭には聞こえていないのだろう。
お堂の中にいるはずの弥生も気にしていないのだろう。
「はっ、春博さん……!」
「なんだ。僕はお前の相手をしている暇ないぞ!」
「ごっ、ごめんなさいっ。で、でも、声が……!」
春博に隠れるように蹲っていた香織は震えながら声をあげた。
「お前」
春博は視線を香織に向けない。
なにより、香織の名を呼ばない。
「声の主がわかるか」
それは自分にはできないことに対する嫉妬心によるものなのか。
人間に対する憎悪によるものなのか。
それとも、香織を特別扱いしてしまうのではないかという恐怖心によるものなのか。
春博は香織に名を呼ばれる度に胸の奥に違和感を抱いていた。
その正体を知ろうとはしなかった。
知ってしまえば、自分自身が大切にしていたものが壊れるような気がしていた。
「どうすれば、声の主を当てられる」
それでも、香織の言葉を遮らない。
香織の言葉を否定することはない。
「も、もっと、ちっ、近づけば、わっ、わかると思います」
不安そうな言葉だ。確信のない言葉だ。
それでも、春博は香織の言葉を信じ、大きく頷いた。
春博にはわからなかった。
「……ぅ」
お堂からか細い声が漏れた。
狐火に取り囲まれてもお堂は燃えない。
燃えるのはお堂の入り口から伸びている巨大な両手だけだ。
「ぁ」
また、小さな声が聞こえた。
旭には聞こえていないのだろう。
お堂の中にいるはずの弥生も気にしていないのだろう。
「はっ、春博さん……!」
「なんだ。僕はお前の相手をしている暇ないぞ!」
「ごっ、ごめんなさいっ。で、でも、声が……!」
春博に隠れるように蹲っていた香織は震えながら声をあげた。
「お前」
春博は視線を香織に向けない。
なにより、香織の名を呼ばない。
「声の主がわかるか」
それは自分にはできないことに対する嫉妬心によるものなのか。
人間に対する憎悪によるものなのか。
それとも、香織を特別扱いしてしまうのではないかという恐怖心によるものなのか。
春博は香織に名を呼ばれる度に胸の奥に違和感を抱いていた。
その正体を知ろうとはしなかった。
知ってしまえば、自分自身が大切にしていたものが壊れるような気がしていた。
「どうすれば、声の主を当てられる」
それでも、香織の言葉を遮らない。
香織の言葉を否定することはない。
「も、もっと、ちっ、近づけば、わっ、わかると思います」
不安そうな言葉だ。確信のない言葉だ。
それでも、春博は香織の言葉を信じ、大きく頷いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
宝石のような時間をどうぞ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
明るく元気な女子高生の朝陽(あさひ)は、バイト先を探す途中、不思議な喫茶店に辿り着く。
その店は、美形のマスターが営む幻の喫茶店、「カフェ・ド・ビジュー・セレニテ」。
訪れるのは、あやかしや幽霊、一風変わった存在。
風変わりな客が訪れる少し変わった空間で、朝陽は今日も特別な時間を届けます。
妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい
じゃくまる
キャラ文芸
ボクの名前は夕霧暮葉。個人Vtuberの真白狐白をやってます。
普段は人とそんなに絡んだりしない人見知りな性格だけど、配信の時はビビりながらも色んなことに挑戦していくよ!
そんなボクは少しだけ人と違うところがあるんだ。
どんなところかというと、オタクなことと人見知りなこと、そして種族が狐の妖種である妖狐だということくらいかな。
うんそう。ボクはみんなが噂に聞くことがある妖種なんだよ。
これはそんなボクの日常と配信を描いた物語。
のんびりしたりドタバタしたり、少しドキドキしたり時々異世界に行ってみたり。
みんなが楽しめるかわからないけど、ボクなりにみんなに見せていっちゃうからよろしくね!
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる