狐塚町にはあやかしが住んでいる

第１話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

０７－１１．

「ハル」

　旭は狐火を増やしながら声をかける。

「はい。いかがなさいましたか！　旭様！」

　春博は待っていたとばかりに声をあげた。

　春博は旭の付き人だ。

　護衛を任せられるようになったのは十年に満たない年数であり、それも、本来ならば旭の付き人をしていた妖狐が休養をしているからこそ、任せられた代理の役目に過ぎない。

　春博はそれを理解している。

　だからこそ、旭の付き人として役に立つのだと証明する機会を欲していた。

「弥生は人の子を匿っている」

　攻撃の手を止めない旭は淡々と告げる。

「人の子の名を当てよ」

　それだけを告げて、旭は上空に駆け上がる。

　お堂の上を回るように駆けていく旭を追い掛け回す両腕には、明らかな疲れが見えていた。

（匿っている？）

　春博は眉間にしわを寄せた。

　信じられない言葉だったのだろう。

「それは狐塚に頼みごとをしていた婆さんの探し人ではありませんか!?」

　三竹山の祠は綻んでいる。

　原因はわからない。

　しかし、お堂を終の棲家として選んだ弥生が人間を匿う理由は一つしかない。

「頭領殿は人の子に魂写しをするつもりではないのでしょうか!?」

　春博は考えられる最悪の状況を口にする。

　魂写しは成功率が極めて低い。しかし、成功した場合、新しい身体を手に入れたあやかしの力は強大なものになる。

（答えが返ってこない）

　旭の返事がないのは、余裕がないからではない。

　春博の言葉が間違っているからである。

（名を告げる必要があるのか）

　神格を持つ旭の管理下に置くためには、名が必要となる。