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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-8.
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「春博。少々、力が入り過ぎだよ」
「は? ……いえ、そのようなことはございません」
一瞬だけ向けられた金色の眼は悲しげに揺れた。
それに気づいた春博は小さく息を吐いた。
(旭様に気を使わせてどうするんだ!)
旭からの言葉を否定したものの、その指摘通り、刀を握り締める力を弱める。
心配を掛けたくはないと言う感情と、主である旭の言葉を否定してしまったことに対する罪悪感が襲い掛かる。
直ぐに心が揺れる。
人から見れば気の遠くなる年月を生きているとは言え、桁違いに長い寿命を持つ種族である鬼からすれば若者だ。
旭のように、なにもかも些細なこととして割り切れない。
「それならば、強引なことをしても文句は言わないでもらいたい」
旭は七尾を揺らす。
穏やかな物言いには変わりはないが、雰囲気が変わった。
「早々にお引き取りをお願いいたしますわ。狐塚の白狐様」
それが何を意味するのか、春博にはわかっていた。
弥生は姿を見せることを拒み、争いになることを受け入れた。
(馬鹿な鬼だ)
弥生に対し、同情心を抱く。
「来るぞ」
それから背後に隠した香織に声をかける。
「残念だ」
旭は思ってもいない言葉を口にする。
話をするだけだと言っていたとは思えない振る舞いをしても、弥生は怯えている気配さえもない。
「祠に封じてしまおうか」
七尾を揺らす旭の周りには青白い光が灯っていく。
狐火と呼ばれるそれらは次々に増えていきお堂を取り囲む。
「それとも、お前ごと祠も燃やしてしまおうか」
舞を踊っていた時とは異なり、旭の言葉一つでお堂に攻撃を仕掛けるだろう。
旭の七尾に合わせるように左右に揺れていた。
「は? ……いえ、そのようなことはございません」
一瞬だけ向けられた金色の眼は悲しげに揺れた。
それに気づいた春博は小さく息を吐いた。
(旭様に気を使わせてどうするんだ!)
旭からの言葉を否定したものの、その指摘通り、刀を握り締める力を弱める。
心配を掛けたくはないと言う感情と、主である旭の言葉を否定してしまったことに対する罪悪感が襲い掛かる。
直ぐに心が揺れる。
人から見れば気の遠くなる年月を生きているとは言え、桁違いに長い寿命を持つ種族である鬼からすれば若者だ。
旭のように、なにもかも些細なこととして割り切れない。
「それならば、強引なことをしても文句は言わないでもらいたい」
旭は七尾を揺らす。
穏やかな物言いには変わりはないが、雰囲気が変わった。
「早々にお引き取りをお願いいたしますわ。狐塚の白狐様」
それが何を意味するのか、春博にはわかっていた。
弥生は姿を見せることを拒み、争いになることを受け入れた。
(馬鹿な鬼だ)
弥生に対し、同情心を抱く。
「来るぞ」
それから背後に隠した香織に声をかける。
「残念だ」
旭は思ってもいない言葉を口にする。
話をするだけだと言っていたとは思えない振る舞いをしても、弥生は怯えている気配さえもない。
「祠に封じてしまおうか」
七尾を揺らす旭の周りには青白い光が灯っていく。
狐火と呼ばれるそれらは次々に増えていきお堂を取り囲む。
「それとも、お前ごと祠も燃やしてしまおうか」
舞を踊っていた時とは異なり、旭の言葉一つでお堂に攻撃を仕掛けるだろう。
旭の七尾に合わせるように左右に揺れていた。
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