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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

07-4.

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「ハルは心配性だな」

「旭様の御身を守るのは僕の使命ですから、警戒をするのは当然のことです」

「さようか。それは心強い」

 旭は尾を揺らしながら、笑った。

(心強いなんて思ってもいないんでしょう)

 春博には旭を守り抜くような力はない。

 最悪の場合、旭の足を引っ張るだけの存在になりかけない。

 それを指摘しないのは旭の優しさか。それとも、諦めか。

(居心地が悪い)

 お堂の中からは妖気が漏れている。

 人を惑わすのには充分であろうその気配を感じて春博は、眉を潜めた。

(気持ちの悪い)

 溢れている妖気からは人への思い入れが感じられる。

 その中には憎悪や殺意にも似た薄暗い感情もあれば、真逆とも取れる感情も含まれている。

(吐き気がする)

 他人を狂おしいほどに愛おしいと思っている感情に当てられ、目が回りそうになる。前後不覚に陥りそうな自分自身を叱咤し、なんとか、平常心を保つ。

(この鬼は人を好いているのか)

 何故だろうか。

 居場所を奪われてしまう恐怖感が煽られる。

(気持ちが悪い。理解ができない。受け入れられない)

 もしかしたら同胞である鬼女に何らかの感情を抱いていたのかもしれない。

 鬼としての力が強すぎたが故に封じられた鬼女への憧れともいうべき感情は、お堂から漏れて来る妖気により薄れていく。

(僕は違う。僕とは違う。僕はああいう風にはなりたくない)

 代わりに得た感情は恐怖と絶望だった。

 どちらにしても、居場所が奪われてしまうと言う不安から生まれたものだ。

(気持ちが悪い。僕にそれを向けないでくれ)

 春博はそれに気づかなかった。

 自らが抱いている不安の正体にも、なぜ、気持ち悪いと感じてしまうのかにも気づくことすら出来なかった。
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