狐塚町にはあやかしが住んでいる

第１話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

０４－８．

（哀れな）

　夜空を彩るのは、哀しき魂の声。

　憐れな人間の末路だった。

（帰る場所を忘れてしまったのか）

　それに気づく者は少ない。

　この国に住む人間の殆どが、人ならざる存在が信じていた時代ならば、未だその声に気付く者がいたであろう。

　そうすれば、多くの魂が迷うことはなかった。

（親しき者にすら、想いを届けられぬとは）

　一歩、踏み込む。

　旭の動きに合わせるように、鈴の音が響く。

　その声に応えるように、魂の声は大きくなる。

　それは、助けを求める声から、生前の感情を吐き出す声へと変わる。

（仕方あるまい。俺が代弁をしてやろう）

　旭の獣耳や七尾と同じく吐く銀色に輝く扇を構える。

　真っ直ぐに空を向いていた眼の瞳孔は開き、施された化粧により妖しく魅せられたその顔には、一目で視る者を魅了する美しい笑顔が浮かんでいた。

　魂の声に応えるかのように、大きく息を吸い込む。

　そして、旭は静かに扇で横一文字に線を引いた。

　途端に騒がしかった魂の声は静まり、代わりに、商店街には霊視の才を持つ者だけが耳にすることが許された鈴の音と和太鼓の音が鳴り響いた。