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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

03-3.

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(怖い神様だったら、どうしよう)

 鬼を従者にしている神は少ない。

 それも、知名度の低い一部の信仰だけを集めている神となれば、その正体が、実は人を喰らう性を持ったあやかしであったという話も珍しくはない。

 陰陽師や僧侶、神主や巫女、と言った霊視の力を持つ人間により、祓われる危険性を回避する為だけに善き神を演じる。

 昔から崇められている得体の知れない神には、少なくはない事例である。

(悪い神様だったら、どうしよう)

 そうして祀られたあやかしは、神へと転じる。

 人間の願いを叶え、その信仰心を集めた存在は、そのまま心を入れ替え、善き神となる者もいる。しかし、中には、霊視の力や祓う才能が失われつつある現代に、再び荒魂やあやかしとしての本能を露わにすることがある。

(わたし、ご飯にされちゃうのかも)

 崇められていた存在が、人間を襲い喰う。

 神だと信じられていたのは、人間を喰う妖怪であった。

 そのような事例は、年に数件発生している。

 耳を塞いでしまいたくなる程に、祖父母や父親から聞かされてきたことを思う。

(わたしの所為で、何かあったら、どうしよう)

 五百年もの間、狐塚町を守って来た神は、何者なのだろうか。

 白狐の神であるとされているものの、その正体は謎に包まれている。

 善良な力を持った狐が多いとされているが、それは、誰が言い出したのか分からない。

(もしも、何か、あったら――)

 些細な事が切っ掛けとなり、暴れ始める可能性を考える。

 それは、恐怖からだろうか。

 香織は、寒いとすら感じる風を感じた。

「おい。旭様の御前だぞ。名乗れ、小娘」

「はっ! はいっ! わっ、わたくし、狐塚稲荷神社の神主の娘でありますりゅ狐塚香織と申しましゅっ! ほっ、本日は、な、なな、何用でございましょうきゃ!?」

 春博から声を掛けられて、慌てて、挨拶の言葉を発する。
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