26 / 81
第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
03-1.霊視の巫女は自信が持てない
しおりを挟む
* * *
「旭様。狐塚香織を連れて参りました」
部屋の奥からは、気怠そうな返事が聞こえる。
先ほどまでの態度とは異なり、丁寧に障子を開ける。
それから、決まり文句なのだろう言葉を続ける春博に視線を向けながら、一緒に頭を下げる。
(お父さんから話を聞いていたけれど、どんな人なのかな)
五百年も昔から、狐塚稲荷神社に住んでいると教えられて来た“狐塚様”こと、旭の姿を見たことはなかった。
その性格や趣向などは、神主を務めている父から聞いた。
こうして、本殿の中に入ったのは初めてである。
それも、旭から招かれた。
恐怖と不安から早まる心臓の音を感じながら、春博の言葉を聞く。
旭の従者だと名乗る鬼の春博とは、幼少期から接して来た。
それでも、いまだに接する度に恐怖を抱いている。
機嫌を損ねてしまう度に死を覚悟する。
それほどに恐ろしい存在だった。
(人を食べるお稲荷様だって、言っていたけど、本当なのかな……)
どちらかと言えば、何かにつけて“喰う”と脅してきたのは、春博である。
聞かされてきた話から旭を想像する。
顔を上げて視ることができればいいのだが、緊張して顔を上げられそうにもない。
(春博さんだって怖くて仕方がないのに)
目の前にいるのは、この神社を守る神なのだ。
好奇心よりも恐怖心が勝ってしまうのは仕方ないことだろう。
(怖い)
狐塚町を守る神として崇められ続けている旭の機嫌を損ねてしまえば、この町には災厄が起きるだろう。
(怖くて仕方がないよ)
あやかしや災いを振りまく荒魂となった神への対処法を心得る人間が多くいた時代ならば、対処をする手段はあったであろうが、今では難しい話だ。
「旭様。狐塚香織を連れて参りました」
部屋の奥からは、気怠そうな返事が聞こえる。
先ほどまでの態度とは異なり、丁寧に障子を開ける。
それから、決まり文句なのだろう言葉を続ける春博に視線を向けながら、一緒に頭を下げる。
(お父さんから話を聞いていたけれど、どんな人なのかな)
五百年も昔から、狐塚稲荷神社に住んでいると教えられて来た“狐塚様”こと、旭の姿を見たことはなかった。
その性格や趣向などは、神主を務めている父から聞いた。
こうして、本殿の中に入ったのは初めてである。
それも、旭から招かれた。
恐怖と不安から早まる心臓の音を感じながら、春博の言葉を聞く。
旭の従者だと名乗る鬼の春博とは、幼少期から接して来た。
それでも、いまだに接する度に恐怖を抱いている。
機嫌を損ねてしまう度に死を覚悟する。
それほどに恐ろしい存在だった。
(人を食べるお稲荷様だって、言っていたけど、本当なのかな……)
どちらかと言えば、何かにつけて“喰う”と脅してきたのは、春博である。
聞かされてきた話から旭を想像する。
顔を上げて視ることができればいいのだが、緊張して顔を上げられそうにもない。
(春博さんだって怖くて仕方がないのに)
目の前にいるのは、この神社を守る神なのだ。
好奇心よりも恐怖心が勝ってしまうのは仕方ないことだろう。
(怖い)
狐塚町を守る神として崇められ続けている旭の機嫌を損ねてしまえば、この町には災厄が起きるだろう。
(怖くて仕方がないよ)
あやかしや災いを振りまく荒魂となった神への対処法を心得る人間が多くいた時代ならば、対処をする手段はあったであろうが、今では難しい話だ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
晴明さんちの不憫な大家
烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。
天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。
祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。
神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1
七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・
世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。
そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。
そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。
「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。
彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。
アルファポリスには初めて投降する作品です。
更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。
Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
裏吉原あやかし語り
石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」
吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。
そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。
「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」
自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。
*カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる