狐塚町にはあやかしが住んでいる

佐倉海斗

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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

02-7.

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「あのー、春博さん? こんな所でどうしたのですか……?」

 立ち尽くす春博に声を掛けたのは、巫女服を着た少女だった。

「掃除の邪魔になっているのですけど」

 自信が無さそうな表情をしたまま、春博を見上げる。

 いつの間にか目の前にいた少女に驚き、春博は刀から手を離す。

「……狐塚キツネヅカ 香織カオリ。ここにいたのか」

 強く握り締めていた刀を簡単に離せた。

 己の意思では、動かなかったはずの身体が動くようになる。

 初めての体験ではなかった。

(一体、何なんだ?)

 衝動を切り離すことが出来ないのは、鬼としての本能に近づいていたからだろうか。

 それとも、春博の意思が弱かったからなのだろうか。

(気にする必要もないか)

 刀から手を離した途端に音は止んだ。

 少女、狐塚香織は、何もなかったかのように静かになった刀に目を向けたが、ため息を零した春博に気付き、慌てて視線を戻した。

「お前には関係ないであろう。それよりも、僕は、旭様のお言葉を受けて、お前を探していたんだ。旭様は、小娘に気を掛ける程にお暇な方ではないのだぞ」

「は、はあ……。ええっと、何かありましたか? お腹でも空きました?」

「ふん。そんなわけがないだろう」

 自信の無さそうな表情をしたままの香織を見下し、春博は笑う。

 狐塚稲荷神社の神主一家の娘であり、学生生活の傍ら、こうして巫女の仕事を手伝っている香織のことを探していた。

 付き人をしている春博が、旭の願いを伝えることが多く、こうして香織を探す為に境内を歩き回っていることは珍しくない。

(旭様は、どうして、こんな子娘に話を通せと仰せになったのか)

 黙ったまま見下せば、泣きそうな顔へと変わる。

 怒らせたと勘違いしているのだろうか。

「え、あ、あの……」

 春博は、八つ当たりであると自覚しつつも、香織を怖がらせることがある。

 今回も、八つ当たりをされるのだろうと思われたのだろう。
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