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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

02-5.

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 神が住まう高天原タカマガハラに居る名のある神々もまた、止めようとはしないであろう。

 古の時代より、この地に住まう神々からすれば、あやかしが人間を喰うことは、自然の摂理である。自然の摂理を保つことを大事にしている神々は多い。

 それは、この国を見守って来た長き時を生きる者だからこその考えだろう。

 そうでなければ、人の死を覆そうとする者がでてくるはずである。

(自然の摂理に反しているからか? いや、あの方はそれすらも些細なことだと笑っておられるはずだ)

 あやかしや荒魂と呼ばれる存在により、行方を晦ませている人間は少なくはない。

 それもまた、自然の摂理に組み込まれている現象の一つである。

 とはいえ、昔よりもその被害が減っているのは、人間を浚うあやかしや人を喰らう荒魂が減少傾向にあるからだろう。

(やはり、あの方は、人間を好いていらっしゃるのか?)

 春博は思わず、背負っている刀に手を伸ばした。

 旭と出会う前から手にしていた刀は、春博の感情に応えるように小さな音を立てて揺れる。

 その音は、春博を嘲笑うかのようだった。

 己の感情を、抑え付けるのを邪魔するかのように鳴る。

 その音に気付く者はいない。

 背負っている春博ですら、その音には気付いていなかった。

(あの老婆さえ、居なければ)

 人間さえいなければ、旭と共に過ごすことが許されるのだろうか。

 不意に思ってしまった考えを肯定するかのように、刀は小さな音を立てる。

(いっそ、人間を殺してしまえば。旭様は、僕を認めて下さるのだろうか)

 足を止め、力のない眼をした春博は、参拝客を見つめる。

 それは、狐塚に住む人か狐塚稲荷神社の噂を耳にした人なのかは、分からない。

 春博には区別がつかない。

 良き人間なのか、悪い人間なのか。そのようなことを考えることもせず、ただ、旭の手を煩わせる存在だという認識しかしてこなかった。

(鬼としての在り方を証明さえすれば)

 春博の傍を通りながらも、彼の存在に気付かない参拝客の姿を目で追い続ける。
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