狐塚町にはあやかしが住んでいる

第１話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

０１－１６．

　誰が定めたのかは分からない。

　旭が産まれるよりも、千年以上も昔から決められていた。

（五百も住めば、多少の愛着も沸くもの）

　他人への執着心はほとんどない。

　しかし、五百年近くも拠点にしていた狐塚の土地には愛着がある。

　これは、我が子を思う親の心と似ているところがあるのだろうか。

　子を持たない旭からすれば狐塚町に住む人の子も、助けを求めるような眼をしている春博も同じだった。

　どうでもいいと言い切るのには、少しばかり愛着が沸いている存在。

　それは、加護を与えるだけでは殺してしまう存在であることを旭は知っていた。

「ならば、答えを見つけよ。己を知れ。己を知らぬ者を狐塚には置けぬ。得体の知れぬ者を留まらせる優しき神などではない」

　だからこそ、旭は冷たい言葉を吐き捨てる。

　考え抜いた答えを発して、旭は静かに眼を開ける。

「香織の元へと行け。話を伝えて来い」

　一方的に告げられたその言葉を聞き、春博は下がる。

「それが、お前の役目であろう？」

　旭に背を向けて歩いていく春博は、不安定に揺れているように映った。

　それは、旭の言葉により存在理由である己自身が揺れているからなのだろうか。吐き捨てた言葉とは異なり、春博の背を心配そうな眼で見つめる。

（愛着を抱いているのは、何も、狐塚の土地だけではないのだよ）

　依存関係に陥る事は、何よりも愚かであるとは思っている。

　しかし、それだけでは片づけることができない。

「答えを導けよ、春博」

「はっ、はい！　旭様！」

　離れていく背を見つめる。

　扉を閉める前に決まり文句を口にしながら、平常心を装う春博に対して、旭は、静かに笑みを浮かべた。