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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

01-15.

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 懐かしい日々を思い出しながらも、手を差し出さない。

 救い上げようとはしない。

(時が来る前に気づけばいいのだが)

 旭には鬼を救うことは出来ない。

 彼自身に己を悟らせるまま、その命だけを助けようとするのならば、本能のままに生かすことしか出来ないのだ。

 それは、神である旭には出来ないことだった。

 この土地を守る神である旭には、この土地の害になる存在を祓う役目がある。

 人々が祀られている神だ。

 だからこそ、人に害を与える鬼を救うことは出来ない。

(その手を離すのには少々遅かったか)

 気まぐれに手を差し出した日のことを思い出す。

 春博との出会いは三百年も前の話だ。

 旅の途中、寄った村で耳にした人間を喰う鬼の話が切っ掛けだった。

 暇つぶしになるかと軽い気持ちで探した鬼が、従者になると言い出したのだ。

 彼らは、それから三百年の月日を過ごしてきた。

 長い時を生きている筈の鬼である春博は、幼い鬼の子のままだ。

 見た目だけは青年であるが、その心は子どものままだ。

(成長せよ、お前の為に)

 長い年月を生きる旭は、些細なことを気にしない。

 己の欲のままに突き進み、その時の気まぐれで敵にも味方にもなる。

 旭を祀り上げる狐塚稲荷神社の神主たちですら、何度も口にした“祟り神”の言葉を一度も発しなかった鬼のことは、それなりに気にかけていたつもりだった。

(俺には救えん。これは、己で片すべき問題だ)

 それを思い、旭は、ようやく放っておいた問題に手を付けた。

 本来ならば、もっと前に手を付けなければいけない問題だった。

 狐塚町の守り神として崇められている旭は、この町を守る義務がある。

 義務を果たしてこそ、善き神として祀られ続けるのだ。

 旭はその仕事を果たさなければならない。

(放浪の旅も好ましい。だが、上の連中の声も無視はできん)

 お社を持っているのならば、あやかしであったとしても神格が与えられる。
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