狐塚町にはあやかしが住んでいる

佐倉海斗

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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

01-12.

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 記憶と同時に覗いた心の中を見ても、心の声を聞いても、興味が沸かなければ手を貸さなかっただろう。

 それも、確実に面倒になるようなことに手を伸ばさない。

(憎いのならば、致し方ない)

 長い年月を共に過ごしてきた鬼に気を使い、今後は、人間に手を貸さない。

 そのようなことは、今後もあり得ないだろう。

 だからこそ、鬼は黙っているのだ。

 面倒な事を好まない旭は、わざわざ、問いかけた。

 それも、二度も問いかけた。

 その真意を探すように無言を貫くのだろう。

(俺は、荒魂が悪いとは思わぬが)

 不意に、本殿を私室として、自由気ままに暮らす日常からは想像することが出来ない殺伐したかつての日常を思い出す。

(この子は救いようがない)

 それは、些細な日々として片づけるのには、長すぎた時間。

 何もかも手に入れながらも、何も満たされない負の連鎖に落ちていた頃の自分の姿と鬼の姿が重なる。

(かつての己を見ているようで嘆かわしいことだ)

 己が欲を満たす為に、長い年月を過ごしていた。

 気まぐれに人間を喰らい、気まぐれに人間を助ける。

 知らぬ間に祀り上げられたことにより、あやかしとしての存在は変わっていった。

 興味が無い存在であった人間に関心を抱くようになったのは、祀り上げられたことが関わっているのだろうか。

 それとも、恋心が旭を変えたのか。

 どちらにしても、春博と出会った当時の旭では考えられないことには違いない。

「応えぬか」

 その言葉に、春博は青褪めた。

 慌てて返事をしようと唇を動かすが、言葉にならない。

(この程度の障り、些細なことだが)

 春博の眼は、親に縋る子どものようであった。
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