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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

01-10.

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 自由気ままに生きるあやかしとはいえ、神格を得た狐である。

 悪戯に人の心を惑わす行いはしない。

「人の子が未だに憎いかい?」

 春博から問いかけられた答えとは異なる。

 質問に質問で答える行為に対しては、春博は文句一つ言わなかった。

 ただ、声を失ってしまったかのように黙ってしまう。

(俺とは似て異なる。しかし、それもまた良いものだとこの子はわからぬだろうな)

 何故だろうか。

 旭は、常に傍に控え、従っている鬼の彼の姿を見ていると思うことがあるのだ。

 それは、人間を喰らう化け狐として産まれ、人間を食事として見下していた日々。人間たちから祟り神として恐れられていた化け狐――、一匹の妖狐としての旭の姿が重なる。

 人ならざる存在として生きていた頃を思い出す。

 それは、悔いがあるわけでは無い日常だった。

 いつの間にか、狐塚町の守り神として祀り上げられ、両親から受け継いだ妖狐としての本能が騒ぎ出すことはなくなっていた。

(下らない問いだとは、分かっているとも)

 答えを求めたわけではない。

 なにを答えられても、それに応じることはできないのだから。

「人の子は弱い」

 祟り神だと恐れて泣き叫ぶ人間の姿を思い出す。

「弱いからこそ、強くあろうとするものだ」

 気まぐれに力を貸してやろうと差し出した手を振り払われたのは、数えきれない。今でこそ、様々な言い伝えと共に神社に祀られている旭ではあるが、彼、本来の姿は、善き神ではない。

 古くからこの日本に住む化け狐。

 古くから人ならざる存在として、その力を振るってきた。

 旭を見て怯える人間は多くいた。

 怯えられることには、慣れていた。

 何も感情を持たずに、ただ、己の欲のままに生きて来た。

 その時間を、悔やむことはないであろう。
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