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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

01-9.

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「旭様。それでは、また、人助けを行うのですか……!?」

 狐塚稲荷神社の本殿。本来ならば、関係者以外立ち入り禁止であるその場所には、本を片手に寝転ぶ旭とその傍で戸惑った声を上げる青年がいた。

「そうとも。気が向いたのでな」

「気まぐれに人を助けられては困りますと何度も申し上げておりますのに!」

「そう、怒るな。ハル」

 旭とは異なり、日本人らしい容姿をした青年、春博の頭には、二つ、鋭い角が生えていた。

 本殿に響くその声は、春博の見た目からは想像できないほどに高い。

 変声期を過ぎたであろう春博から発せられた声に対して、煩わしそうに獣耳を動かす。

 人ならざる存在やあやかしと呼ばれるものの一つ、鬼を連想させる特徴を持つ彼に視線を向ける。本から視線を上げながらも、体制を整えない。

(人喰いの性は、人を拒絶するか)

 人を喰らうのは、鬼の本能と言っても過言ではないだろう。

 文明が築き上げられるよりも昔から、日本を居住としてきた人ならざる存在は、人間から畏れられて来た。

 迫害を受けながらもその脅威を隠す事無く、存在し続けた。

 それを長い間、見て来た。

 畏れられる存在の一人として見つめて来た。

(本能は変わることはないか)

 視線を本に落とす。古の文字で書かれた本は、旭が好んで読む小説であった。

 それは、何百年も昔、時代に飲まれるように消えていった人間に手を貸した際、お礼にと渡された古びた物語であった。

(それはそれで良いのだが)

 それを思いながらも、旭は考えを改めない。

 狐塚の前で願いを呟いた美佐子に告げたのだ。

 この神社に住み付く神として、その願いを叶えると、宣言した。

 人を助ける声に応えたのは、旭である。

 一度叶えると決めた願いを蹴る行為は、狐塚町に居つくようになった頃より一度もしたことがない。
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