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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
04-4.
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「いお、り」
その言葉の意味を確かめようとするかのように、母は何度も伊織の名を呟いた。大切にしまっていた宝物の中身を確かめるように、何度も何度も繰り返す。
それは母の心残りだった。
母の未練だった。
その未練に鬼である伊織が触れてしまえば、消えてしまうほどの心もとない心残りであり、それが現世に留まり続けるのは、母の魂を現世に縛り続けるようなものだと伊織は知っていた。
頭の中では理解をしていた。
母が残してしまった未練を解くことができるのは、伊織だけだと知っていた。
それでも、その手を伸ばせなかったのは伊織に覚悟がなかったからだ。
「おかえり」
母は笑った。
その言葉を言う為だけに墓の上に座り続けていたかのように、優しい笑顔だった。
「……ただいま。母さん」
伊織は笑ってみせた。
掴んだはずの母の手は光の泡となって消えていく。少しずつ、景色に溶けていくかのように欠けていく母の姿に伊織は涙を堪えることができなかった。
……苦しいもんだな。
覚悟はしたはずだった。
すべては姉を生かす為だ。
再会を果たした美香子と一緒に過ごす日々は愉快なものになるだろう。それは、伊織は人として生きた日々を思い出させるものになる。
それらを手放せなかった。
その為ならば、母の未練を利用すると決めたのだ。
「母さん」
伊織の声は母に届かない。
しかし、母は穏やかに微笑んでいた。
かつて、母と息子として過ごした懐かしい日々を思い出せる笑顔だ。母は伊織を慈しみ、心を鬼にして軍に送り込んだのだろう。
「俺、母さんの息子に生まれてよかったよ」
伊織は涙を堪えながら、震える声で告げる。
光の泡のように消えていく母の未練が伊織の頭の中に入り込む。
それは音のない映画を見ているようなものだった。一方的に押し付けられた記憶の中で、母は古びた写真を抱きしめて泣いていた。
その言葉の意味を確かめようとするかのように、母は何度も伊織の名を呟いた。大切にしまっていた宝物の中身を確かめるように、何度も何度も繰り返す。
それは母の心残りだった。
母の未練だった。
その未練に鬼である伊織が触れてしまえば、消えてしまうほどの心もとない心残りであり、それが現世に留まり続けるのは、母の魂を現世に縛り続けるようなものだと伊織は知っていた。
頭の中では理解をしていた。
母が残してしまった未練を解くことができるのは、伊織だけだと知っていた。
それでも、その手を伸ばせなかったのは伊織に覚悟がなかったからだ。
「おかえり」
母は笑った。
その言葉を言う為だけに墓の上に座り続けていたかのように、優しい笑顔だった。
「……ただいま。母さん」
伊織は笑ってみせた。
掴んだはずの母の手は光の泡となって消えていく。少しずつ、景色に溶けていくかのように欠けていく母の姿に伊織は涙を堪えることができなかった。
……苦しいもんだな。
覚悟はしたはずだった。
すべては姉を生かす為だ。
再会を果たした美香子と一緒に過ごす日々は愉快なものになるだろう。それは、伊織は人として生きた日々を思い出させるものになる。
それらを手放せなかった。
その為ならば、母の未練を利用すると決めたのだ。
「母さん」
伊織の声は母に届かない。
しかし、母は穏やかに微笑んでいた。
かつて、母と息子として過ごした懐かしい日々を思い出せる笑顔だ。母は伊織を慈しみ、心を鬼にして軍に送り込んだのだろう。
「俺、母さんの息子に生まれてよかったよ」
伊織は涙を堪えながら、震える声で告げる。
光の泡のように消えていく母の未練が伊織の頭の中に入り込む。
それは音のない映画を見ているようなものだった。一方的に押し付けられた記憶の中で、母は古びた写真を抱きしめて泣いていた。
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