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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
04-3.
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「母さん。人として戻れなくてごめん」
伊織は謝罪の言葉を口にする。
それは鬼になってから何度も口にしてきた言葉だった。
「母さんの言葉を聞かなくてごめん」
伊織は墓の上に座る女性に手を伸ばす。
伊織を見ようともしない女性に声は届かない。けれども、鬼である伊織の手は届く。人ならざる者だからこそ、触れられる。
……触れてしまった。
その手は届いた。
それは伊織の願いを叶えてくれるだろう。
しかし、心が痛む。
声が届かないのならば、それでよかった。その姿を眺めながら、墓参りをするのは伊織の人に対する未練を引き延ばす為の行為でもあった。
人として生きたかったという思いを持ち続けるのは難しい。
長い年月の中、人として生きた時間は短いものとなり、それは夢を見ていたかのように眩い思い出となって消えていく。いずれ、はっきりと思い出せなくなる。
伊織はそれを恐れていた。
だからこそ、母の未練に手を伸ばせないでいた。
「……母さん」
伊織は墓の上に座っていた女性の動きが変わったことを見落とさなかった。
母はゆっくりと伊織に視線を向けた。
ぼんやりとした顔は次第にはっきりとした顔立ちに変わっていく。その姿は晩年のものではなく、伊織の記憶の中にある母の姿そのものだった。
「……いおり」
母は言葉を発した。
それは風の音にかき消されてもおかしくはないものだ。
「そうだよ。俺だよ。伊織だ」
伊織の声は震えてしまう。
「遅くなってごめん。帰ってきたよ、母さん」
伊織の言葉は母に届いた。
それは母の未練に触れた証拠だった。
「かえって、きた」
母は言葉を発する。
言葉の意味を瞬時に理解するほどの知力は残っていない。擦り切れて、そのまま消えてしまってもおかしくはないほどに年月がかかってしまった。
その姿はあまりにも痛々しいものだった。
伊織は謝罪の言葉を口にする。
それは鬼になってから何度も口にしてきた言葉だった。
「母さんの言葉を聞かなくてごめん」
伊織は墓の上に座る女性に手を伸ばす。
伊織を見ようともしない女性に声は届かない。けれども、鬼である伊織の手は届く。人ならざる者だからこそ、触れられる。
……触れてしまった。
その手は届いた。
それは伊織の願いを叶えてくれるだろう。
しかし、心が痛む。
声が届かないのならば、それでよかった。その姿を眺めながら、墓参りをするのは伊織の人に対する未練を引き延ばす為の行為でもあった。
人として生きたかったという思いを持ち続けるのは難しい。
長い年月の中、人として生きた時間は短いものとなり、それは夢を見ていたかのように眩い思い出となって消えていく。いずれ、はっきりと思い出せなくなる。
伊織はそれを恐れていた。
だからこそ、母の未練に手を伸ばせないでいた。
「……母さん」
伊織は墓の上に座っていた女性の動きが変わったことを見落とさなかった。
母はゆっくりと伊織に視線を向けた。
ぼんやりとした顔は次第にはっきりとした顔立ちに変わっていく。その姿は晩年のものではなく、伊織の記憶の中にある母の姿そのものだった。
「……いおり」
母は言葉を発した。
それは風の音にかき消されてもおかしくはないものだ。
「そうだよ。俺だよ。伊織だ」
伊織の声は震えてしまう。
「遅くなってごめん。帰ってきたよ、母さん」
伊織の言葉は母に届いた。
それは母の未練に触れた証拠だった。
「かえって、きた」
母は言葉を発する。
言葉の意味を瞬時に理解するほどの知力は残っていない。擦り切れて、そのまま消えてしまってもおかしくはないほどに年月がかかってしまった。
その姿はあまりにも痛々しいものだった。
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