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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
04-2.
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「母さん」
伊織は何度も母を呼ぶ。
幼き頃の日々を思い出す。それは戻ることが許されないからこそ、恋しくて、狂いそうなほどに輝かしい日々だった。
「俺、後悔をしていないよ」
伊織は本音を口にする。
軍人になると選んだのは、男ならば国に尽くすのが当然の時代だったからだ。他の人と違う力を持って生まれたのならば、それを国の為に使うこそが伊織に託された使命なのだと信じて疑わなかった。
かつて人であった時の伊織の使命を母は否定した。
母は軍に行くべきではないと口にしていた。
それは愛国心に欠ける言葉であると、口にしてはいけないものだと母は知っていたはずだ。それよりも息子を優先したかったのだろう。
その気持ちを伊織は理解できなかった。
人として交わした言葉はその日が最後だった。
「軍は俺の居場所だった。国の為に尽くした日々は間違いなんかじゃない」
伊織はかつての熱があった時代が好きだった。
過ちを犯しつつ、踏み止まることが許されなかった燃えるような日々を過ごしているのは悪くはなかった。
それは人ではなく、鬼としての本能が強まっていたからなのだろう。
鬼として本能が争いを求めた。血を血で洗う日々を求めた。
その日々は伊織を人とあやかしの境界を曖昧にし続け、ひょんな拍子で境界線を踏み外してしまった。
「姉さんと七海から聞かされたんだろ。俺が景色に溶け込むように消えちまったって。きっと、母さんはそうなると知っていたんだろ?」
伊織の言葉は母に届かない。
それでも、止めるわけにはいかなかった。
「鬼になると知っていたからこそ、母さんは反対をしていたんだろ?」
伊織は真実を知らない。
鬼になると思ってもいなかった。
しかし、今になると母は知っていたのだろう。伊織の力は国に尽くす為に与えられた奇跡の力ではなく、人ならざる者の力だと知っていたからこそ、必死に人の道を踏み外さないように引き留めようとしていたのだろう。
それを言葉にはできない時代だった。
母は伊織に人でいてほしいと願っていいた。
それは、伊織が神隠しにあったことにより、散ってしまった願いだった。
伊織は何度も母を呼ぶ。
幼き頃の日々を思い出す。それは戻ることが許されないからこそ、恋しくて、狂いそうなほどに輝かしい日々だった。
「俺、後悔をしていないよ」
伊織は本音を口にする。
軍人になると選んだのは、男ならば国に尽くすのが当然の時代だったからだ。他の人と違う力を持って生まれたのならば、それを国の為に使うこそが伊織に託された使命なのだと信じて疑わなかった。
かつて人であった時の伊織の使命を母は否定した。
母は軍に行くべきではないと口にしていた。
それは愛国心に欠ける言葉であると、口にしてはいけないものだと母は知っていたはずだ。それよりも息子を優先したかったのだろう。
その気持ちを伊織は理解できなかった。
人として交わした言葉はその日が最後だった。
「軍は俺の居場所だった。国の為に尽くした日々は間違いなんかじゃない」
伊織はかつての熱があった時代が好きだった。
過ちを犯しつつ、踏み止まることが許されなかった燃えるような日々を過ごしているのは悪くはなかった。
それは人ではなく、鬼としての本能が強まっていたからなのだろう。
鬼として本能が争いを求めた。血を血で洗う日々を求めた。
その日々は伊織を人とあやかしの境界を曖昧にし続け、ひょんな拍子で境界線を踏み外してしまった。
「姉さんと七海から聞かされたんだろ。俺が景色に溶け込むように消えちまったって。きっと、母さんはそうなると知っていたんだろ?」
伊織の言葉は母に届かない。
それでも、止めるわけにはいかなかった。
「鬼になると知っていたからこそ、母さんは反対をしていたんだろ?」
伊織は真実を知らない。
鬼になると思ってもいなかった。
しかし、今になると母は知っていたのだろう。伊織の力は国に尽くす為に与えられた奇跡の力ではなく、人ならざる者の力だと知っていたからこそ、必死に人の道を踏み外さないように引き留めようとしていたのだろう。
それを言葉にはできない時代だった。
母は伊織に人でいてほしいと願っていいた。
それは、伊織が神隠しにあったことにより、散ってしまった願いだった。
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