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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
02-8.
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それでも、心のどこかでは幼い頃に起きた事件に対する罪悪感と恐怖感を抱いたままだったのだろう。
それが心の傷となり、今も七海を苦しめている。
「おじちゃん、助けてよ。このままだと優斗がいなくなっちゃう」
泣き崩れる七海の頭を撫ぜる美香子も同意見なのだろう。
孫やひ孫よりも、娘を優先したのだろう。
そこには美香子の母親としての顔を見た気がした。
「……家族と相談をしろ」
それが解決策ではないことは知っていた。
「俺がいなくなってから、八十年近くは経っているだろう?」
正確な年月は忘れつつある。
そもそも人とあやかしでは流れる月日の感じ方さえも異なる。時の流れを感じさせない彼岸にいるとあっという間に数年という年月が経過していることも、決して珍しいことではない。
「時代は大きく変わった。あの頃とは違う。貴重な戦力として国に捧げることを強制させられるような時代でもないだろう」
伊織が彼岸の住人となったのは戦時中だった。国民には勝利が間近のようなことを報道しつつ、現実は大きく異なっているような時代だった。
時には異国に足を踏みいれ、大きな力を振るう。
国を守る為にあるのだと教えられた通りに生きてきた。そんな苛烈な日々の息抜きと称して与えられた休暇中に起きた事故のようなものだった。
「それでも、どうしようもないのならば、一度だけならば会ってみてもいい」
涙が零れ続けている七海に対して同情をしたのだろうか。
顔を合わせたところで解決策が見つかるわけではない。それどころか、彼岸を生きる鬼と引き合わせたことにより事態が悪化する可能性さえもあるだろう。
「いいか。七海、俺は人になれねえんだ」
人として生を受け、あやかしに転じる者はいる。
しかし、あやかしが人に成ることはない。
「俺と同じような道を歩ませるわけにはいかねえだろ」
意味がない行動だと知っていた。
機械越しでも姿を視ることができない七海と対面しても、彼女は伊織の姿を視ることはできない。狐に化かされるような体験をさせることもさえもできず、住所を教えたところで七海が辿り着ける可能性も極めて低い。
提案した言葉は意味のないものだった。
機械越しでなければ声を届けることもできない。それさえも年月と共に変わってしまう可能性がある。
それが心の傷となり、今も七海を苦しめている。
「おじちゃん、助けてよ。このままだと優斗がいなくなっちゃう」
泣き崩れる七海の頭を撫ぜる美香子も同意見なのだろう。
孫やひ孫よりも、娘を優先したのだろう。
そこには美香子の母親としての顔を見た気がした。
「……家族と相談をしろ」
それが解決策ではないことは知っていた。
「俺がいなくなってから、八十年近くは経っているだろう?」
正確な年月は忘れつつある。
そもそも人とあやかしでは流れる月日の感じ方さえも異なる。時の流れを感じさせない彼岸にいるとあっという間に数年という年月が経過していることも、決して珍しいことではない。
「時代は大きく変わった。あの頃とは違う。貴重な戦力として国に捧げることを強制させられるような時代でもないだろう」
伊織が彼岸の住人となったのは戦時中だった。国民には勝利が間近のようなことを報道しつつ、現実は大きく異なっているような時代だった。
時には異国に足を踏みいれ、大きな力を振るう。
国を守る為にあるのだと教えられた通りに生きてきた。そんな苛烈な日々の息抜きと称して与えられた休暇中に起きた事故のようなものだった。
「それでも、どうしようもないのならば、一度だけならば会ってみてもいい」
涙が零れ続けている七海に対して同情をしたのだろうか。
顔を合わせたところで解決策が見つかるわけではない。それどころか、彼岸を生きる鬼と引き合わせたことにより事態が悪化する可能性さえもあるだろう。
「いいか。七海、俺は人になれねえんだ」
人として生を受け、あやかしに転じる者はいる。
しかし、あやかしが人に成ることはない。
「俺と同じような道を歩ませるわけにはいかねえだろ」
意味がない行動だと知っていた。
機械越しでも姿を視ることができない七海と対面しても、彼女は伊織の姿を視ることはできない。狐に化かされるような体験をさせることもさえもできず、住所を教えたところで七海が辿り着ける可能性も極めて低い。
提案した言葉は意味のないものだった。
機械越しでなければ声を届けることもできない。それさえも年月と共に変わってしまう可能性がある。
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