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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
01-8.
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「なんだい、これは。読めたもんじゃないねえ」
「そうだろうな」
それから着物の中に仕舞ってあった巾着袋から長方形の紙を取り出す。
それは名刺のようなものだ。
自由気ままに生きることの多いあやかしたちの中で個性豊かな名刺を作ることが流行をした際、居場所としている鬼頭自警団の一員として作ったものだ。
「子どもの玩具だってしっかりと作っているもんだよ。これがなんだっていうんだい?」
美香子の眼は昔より悪くなっているのだろう。
渡された紙に書かれた文字を読もうとしている姿は寂しく思えてくる。
「大事なもんだ。今の俺の居場所だ」
「へえ、そうかい。伊織の居場所ならいいところなんだろうねえ」
あやかしたちの中では日常的に使われている字は古い文体が多い。
それは明治生まれの美香子でも読めない文字だった。
「会えてよかったよ。美香子姉さん」
美香子の反応に対し、伊織は笑った。
今度は上手に笑えただろうか。
笑顔を浮かべれば鋭い牙が見える。人ではないそれに反応をすることもない美香子に対し、抱いたのは薄れつつある人としての培ってきた情だろう。
「さようなら、姉さん」
それからもう一度、和傘を揺らす。
「……伊織?」
何度も瞬きをしている美香子の表情も見慣れてしまった。
伸ばせる範囲で手を大きく動かす美香子が見当違いな方向を向いていることを指摘もせず、伊織は歩き始める。
和傘を揺らしただけだ。
それだけの何気ない仕草を見逃しただけなのだが、美香子の視界から伊織が外れた。
「どこにいったんだい、伊織。こんな紙切れだけ残したってねえ、あたしは納得なんかしやしないよ!!」
一度、外れてしまうとその姿を認識できなくなるのだろう。
それはまだ美香子の寿命が残されていることを証明していた。
……あやかしとの縁なんて結ぶものじゃねえ。
逃げるように立ち去ってしまったことに対する罪悪感はない。それどころか、思わず渡してしまった名刺を捨ててくれていることを願ってしまう。
……なにをしてるんだろうな。俺は。
「そうだろうな」
それから着物の中に仕舞ってあった巾着袋から長方形の紙を取り出す。
それは名刺のようなものだ。
自由気ままに生きることの多いあやかしたちの中で個性豊かな名刺を作ることが流行をした際、居場所としている鬼頭自警団の一員として作ったものだ。
「子どもの玩具だってしっかりと作っているもんだよ。これがなんだっていうんだい?」
美香子の眼は昔より悪くなっているのだろう。
渡された紙に書かれた文字を読もうとしている姿は寂しく思えてくる。
「大事なもんだ。今の俺の居場所だ」
「へえ、そうかい。伊織の居場所ならいいところなんだろうねえ」
あやかしたちの中では日常的に使われている字は古い文体が多い。
それは明治生まれの美香子でも読めない文字だった。
「会えてよかったよ。美香子姉さん」
美香子の反応に対し、伊織は笑った。
今度は上手に笑えただろうか。
笑顔を浮かべれば鋭い牙が見える。人ではないそれに反応をすることもない美香子に対し、抱いたのは薄れつつある人としての培ってきた情だろう。
「さようなら、姉さん」
それからもう一度、和傘を揺らす。
「……伊織?」
何度も瞬きをしている美香子の表情も見慣れてしまった。
伸ばせる範囲で手を大きく動かす美香子が見当違いな方向を向いていることを指摘もせず、伊織は歩き始める。
和傘を揺らしただけだ。
それだけの何気ない仕草を見逃しただけなのだが、美香子の視界から伊織が外れた。
「どこにいったんだい、伊織。こんな紙切れだけ残したってねえ、あたしは納得なんかしやしないよ!!」
一度、外れてしまうとその姿を認識できなくなるのだろう。
それはまだ美香子の寿命が残されていることを証明していた。
……あやかしとの縁なんて結ぶものじゃねえ。
逃げるように立ち去ってしまったことに対する罪悪感はない。それどころか、思わず渡してしまった名刺を捨ててくれていることを願ってしまう。
……なにをしてるんだろうな。俺は。
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