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第一話 墓参りは姉弟の縁を結び直す
01-3.
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この七十年間、一度もその目には伊織の姿が映し出されることはなかったのだが、今は、震える手で伊織の腕を掴んでいる。
……いっそのこと怯えてくれたらいいものを。
その目には恐怖はない。
その目には涙が溜まっている。
……どうして、泣きそうな顔をするんだよ。美香子姉さん。
簡単に振り払うことができる枯れ枝のような手だった。
皺が増えた顔は泣きそうな表情のようにも、怒っているようにも見える。
……振り払えないじゃないか。
目の前にいる伊織のことを認識しつつ、ありえない現実に戸惑っているのだろう。
それならば、これは夢を見ているだけなのだと現実に突き飛ばしてしまうことが老婆、山田美香子の為なのだとわかっていながらも、伊織は動けなかった。
「はは、今にも死にそうな婆さんがなんのつもりだ?」
その変化は切ない別れを意味しているのだということも知っていた。
はたして、上手く笑えているだろうか。
「墓荒らしでも捕まえようとしたか? それとも、想定外の化け物が相手で声も出ないか。何か言ってみたらどうだ」
伊織の腕を掴んだまま、状況を理解していない美香子は姉だった。
伊織が人として生きていたのは、彼のような不可思議な力を持つ者は人型兵器として扱われるのが当然だった時代だ。
「生き抜いたアンタを恨んで化けて出たように見えるか?」
今の時代では考えられない酷い待遇だった。
科学では証明できない不可思議な力を持つ人は存在する。その力を表現する言葉は多くあり、どれもが的を射ていない言葉だった。
「役目を果たせないままに行方をくらましたろくでなしに見えるか?」
伊織は笑ってみせた。
呆然とした顔をしながらも、手を離そうとしない美香子が言うはずもないもとわかっているような台詞を口にする。
「その枯れ枝のような腕じゃあなにもできねえだろ。婆さん。俺を捕まえてなんのつもりだ」
悲しき時代を共に生きた美香子は伊織のことを忘れなかったのだろう。
時代に翻弄され、行方知らずとなった弟のことをろくでなしと思っていたのならば、どれほどに良かっただろうか。
軍によって告げられた形だけの死を受け入れられたのならば、美香子の心に重荷を背負わせることはなかったのだろうか。
……いっそのこと怯えてくれたらいいものを。
その目には恐怖はない。
その目には涙が溜まっている。
……どうして、泣きそうな顔をするんだよ。美香子姉さん。
簡単に振り払うことができる枯れ枝のような手だった。
皺が増えた顔は泣きそうな表情のようにも、怒っているようにも見える。
……振り払えないじゃないか。
目の前にいる伊織のことを認識しつつ、ありえない現実に戸惑っているのだろう。
それならば、これは夢を見ているだけなのだと現実に突き飛ばしてしまうことが老婆、山田美香子の為なのだとわかっていながらも、伊織は動けなかった。
「はは、今にも死にそうな婆さんがなんのつもりだ?」
その変化は切ない別れを意味しているのだということも知っていた。
はたして、上手く笑えているだろうか。
「墓荒らしでも捕まえようとしたか? それとも、想定外の化け物が相手で声も出ないか。何か言ってみたらどうだ」
伊織の腕を掴んだまま、状況を理解していない美香子は姉だった。
伊織が人として生きていたのは、彼のような不可思議な力を持つ者は人型兵器として扱われるのが当然だった時代だ。
「生き抜いたアンタを恨んで化けて出たように見えるか?」
今の時代では考えられない酷い待遇だった。
科学では証明できない不可思議な力を持つ人は存在する。その力を表現する言葉は多くあり、どれもが的を射ていない言葉だった。
「役目を果たせないままに行方をくらましたろくでなしに見えるか?」
伊織は笑ってみせた。
呆然とした顔をしながらも、手を離そうとしない美香子が言うはずもないもとわかっているような台詞を口にする。
「その枯れ枝のような腕じゃあなにもできねえだろ。婆さん。俺を捕まえてなんのつもりだ」
悲しき時代を共に生きた美香子は伊織のことを忘れなかったのだろう。
時代に翻弄され、行方知らずとなった弟のことをろくでなしと思っていたのならば、どれほどに良かっただろうか。
軍によって告げられた形だけの死を受け入れられたのならば、美香子の心に重荷を背負わせることはなかったのだろうか。
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