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第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

04-5.

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「話し合いだけでもしてみようか」

 ブライアンの提案を断る理由がなかった。

 ……話し合いになるか、わからないけど。

 まともな話し合いになるとは思えない。

 しかし、このまま対話をせずに終わるのは互いにとって良くないだろう。

「……うん。兄様」

 セシルはベッドから降りる。

 その様子をブライアンは見守っていた。


* * *


 エドワードは応接間に留まっていた。

 感情的に暴れていなかったのは、エドワードの母親であろう王妃陛下の説得のおかげだろう。

「エドワード王子殿下。ご気分はいかがですか?」

 ブライアンの問いかけに対し、エドワードは眉を顰めていた。

 エドワードの視線はブライアンの背中に隠れるようにしているセシルに向けられている。真っ先に声をかけるべきなのは、セシルだろうと言いたげな視線を向けられていることに、セシルも気づいてはいた。

 ……エドワードに気を遣うなんてしたくない。

 セシルは兄のようになれない。

「最悪だ」

 エドワードははっきりと答えた。

 先ほどまでエドワードを慰めていた王妃陛下の姿はなく、既にアリシアやデズモンドとの交渉に向かったのだろう。

 エドワードは王太子に選ばれる見込みは低く、彼自身の権力はない。

 だからこそ、王妃陛下にとって、エドワードは国の為にと厳しく接する必要がなく、好きなだけ甘やかすことが許された唯一の我が子という扱いだった。

 そのことをエドワードも知っている。

 期待をされていないからこそ、甘やかされているのだとわかっている。

「ブライアン。俺はお前の偉そうな講義も理想論も、アクロイドの為になりそうな話も一つも聞いてやるつもりはないからな」

 だからこそ、エドワードはどこまでも偉そうだった。

 なにをされても許される。その代わり、なにも手に入れることはできない。

 複雑な立場にいることはエドワードもわかっていた。

 ……兄様に対してなんてことを言うんだ!

 セシルは心の中で怒る。

 セシルには難しいことはわからない。だが、兄を格下扱いされたことはわかる。
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