『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

佐倉海斗

文字の大きさ
上 下
24 / 42
第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

03-6.

しおりを挟む
「ふざけんなよ。セシルのくせに」

 誰もエドワードを止められなかった。

「婚約を破談させてやる」

 エドワードは宣言をした。

 その言葉を聞き、セシルは心の底から軽蔑すると言わんばかりの顔をして舌打ちをした。

「……兄様。放して」

「あ、ああ。でも、セシル、殴るのは――」

「もう殴らないから」

 セシルは怒っていた。

 一方的なエドワードの宣言は効力を持たない。

 セシルの婚約は、宰相であるデズモンドが決めてきたものであり、エドワードは無関係だからだ。

 家族に対しては温厚なセシルが怒っていることに驚いたのか。

 セシルの殴らないという言葉を信じたのか。

 ブライアンは、セシルを羽交い絞めしていた腕を下ろした。

「破談なんかしないから」

 セシルはエドワードの頬を叩いた。

 ブライアンに対し、エドワードを殴らないと告げたことを一瞬で忘れてしまったかのようだった。

「俺からルシアンを奪おうとするなら、エドワードでも許さないからな」

 セシルの言葉を聞き、エドワードは心外だと言わんばかりに表情を歪めた。

「誰がアレを欲しがるかよ!」

 エドワードは殴り返しそうになるのを堪えつつ、セシルと向き合う。

 叩かれた頬は赤く染まる。

 いつになく、真剣な目をしていた。

「俺はセシルが好きなんだよ!」

 エドワードは冷静ではなかった。

 反射的に心の声を口にしてしまったことに気づき、慌てて自分自身の口を手で押さえてみるものの、なにもかも遅かった。

 お茶会に参加をしている者たちの耳に届いてしまっている。

 その中にはアリシアと親しげに会話を交わし、二人のやり取りを見守っているだけだった王妃の姿もあった。

「は? 気持ち悪いんだけど。殴りすぎて頭がおかしくなった?」

 セシルはエドワードの告白を聞いても動じない。

 それどころか、殴りどころが悪かったのではないかと心配するほどだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

火傷の跡と見えない孤独

リコ井
BL
顔に火傷の跡があるユナは人目を避けて、山奥でひとり暮らしていた。ある日、崖下で遭難者のヤナギを見つける。ヤナギは怪我のショックで一時的に目が見なくなっていた。ユナはヤナギを献身的に看病するが、二人の距離が近づくにつれ、もしヤナギが目が見えるようになり顔の火傷の跡を忌み嫌われたらどうしようとユナは怯えていた。

[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの

るい
BL
 潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。  いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。  けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。  しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。

処理中です...