上 下
15 / 39
第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

02-11.

しおりを挟む
「セシル。お前の気持ちはよく分かった」

 デズモンドは涙を拭いながら声をかけた。

「しかし、覚悟が必要になる。辺境は寂れた場所だ。首都とは比べることさえもできない田舎にあり、今までの生活は過ごすことができないだろう」

 デズモンドの言葉は間違いではない。

 ハヴィランド辺境伯領は農業が盛んな土地である。

 国境付近にある為、異国との衝突も多く、常に辺境伯爵家の私有騎士団が警戒をしているような地域だ。

 なにより、付近には、狂暴化した魔物も目撃されている森がいくつもあり、討伐依頼を受けた冒険者たちが頻繁に出切りをしているような町が多くある。

 喧騒とは縁のない首都とは違う。

 その過酷な環境の中にセシルを向かわせるのは、デズモンドの心が痛むのだろう。

「ブライアン兄様のように強くなればいい?」

「ダメだ。セシルの可愛さが損なわれることは許可できない」

 セシルの提案は、デズモンドにより却下された。

 セシルは兄姉の中でも小さい。

 年齢が幼いこともあるだろうが、兄たちのように剣術などを習っていないことが大きい。最低限の身の守り方は教え込まれているものの、剣を振り回して戦うような体力も筋力も身に付けることは許されなかった。

 家族の中で共通事項がある。

 それは、セシルは守るべき対象であるということだ。

 セシルは弱い。か弱い存在だ。

 そうあるべきであると押し付けられ、セシルは当然のように笑って、それを受け入れた。

 家族が望む振る舞いをすれば、家族が喜んでくれるとわかっていたからだ。

 だからこそ、セシルはデズモンドが何を望んでいるのか、気づいていた。

 それに応えるべきだと思う心を押さえつけ、セシルはアリシアの腕の中からデズモンドに視線を向けた。

「お父様。俺は弱くない」

 セシルの初めての反抗だった。

「魔力量が多くて、二属性の魔法が使えるし。魔法石があれば、杖じゃなくても、アクセサリーだけでも魔法を使える。先生は俺のことを天才だって言ってた」

 セシルは魔法の才能に恵まれていた。

 セシルの才能を伸ばす為だけに、人嫌いで有名な魔塔にまで足を運び、セシルの教育係になってほしいと頼み込んだデズモンドが知らないはずがない。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...