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第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

02-4.

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 ……でも、楽しそうだな。

 ルシアンが楽しければそれでいい。

 セシルは打ち明けられている内容の理解はできなかったものの、何度も軽く頷いて話を続けるように促してみた。

「僕がセシルに選ばれるなんて。嬉しくて、現実か疑ってしまったんだよ」

 ルシアンは恋する乙女のように頬を染める。

「でも、同時にすごく申し訳ないんだ。セシルは悪役令息で断罪される未来が待っていて、それを僕が回避してセシルを幸せにしたいと思うけど。でも、セシルの初恋を僕が潰してしまったような気がして。複雑なんだよ」

 ルシアンは複雑そうな表情をする。

 ……今日はよく変わるな。

 ルシアンは笑っていることが多い。

 なにがそんなに楽しいのだろうと思いつつ、セシルはルシアンの笑い顔を見るのが好きだった。

 だからこそ、今日は顔が赤くなったり青くなったりと忙しいルシアンを見て妙な気持ちになる。

 ……これはこれでいいけど。

 複雑な気持ちだ。

 セシルは自分の気持ちが理解できない。

 ……なんだろう。なんか、嫌だ。

 心に靄がかかっているような気分だ。

「僕はセシルが好きだけど。でも、セシルの初恋は僕じゃなくて。それがどうしても耐えられなかったから、父上を説得して、セシルと友達になるチャンスを掴んだのに。それだけで満足もできない自分が嫌になってしまって」

 ルシアンの口からは度々セシルの名前がでるのだが、なぜか、知らない人の話を聞かされているような気分になる。

 それがどうしようもなく不快だった。

「初恋って、なんのことだよ」

 セシルは不愉快そうな声をあげる。

「俺が誰を好きなんて、誰にも言ったことないんだけど」

 一方的に決めつけないでほしい。

 そう訴えるかのようなセシルの言葉を聞き、ルシアンは語っていた口を閉じた。

「ルシアンの話は、まったくわからない。でも、すごく不愉快だ」

 セシルはわざとらしくため息を吐いた。
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