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第1話 10歳の悪役令息、幼馴染の秘密を知る

02-2.

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「ルシアンも座れよ。ここなら、誰にも聞かれないからさ!」

 セシルはルシアンの腕から手を放し、休憩所の椅子に座る。

 向かい側に用意されている椅子に座るように促され、ルシアンは大人しく椅子に座った。

「いい場所だろ。今度、お兄様たちに教えてやろうと思ってたんだ。あっ、でも、ルシアンが一番になったな。なんかそれも嬉しいし、ここは俺たちだけの秘密の場所にしようぜ」

 周囲を伺うように見渡しているルシアンに対し、セシルは本当に誰もいないと思っているのだろう。

「セシルの好きなようにしてよ」

 ルシアンはセシルの気分を害することは言わない。

 否定も肯定もしない。ただ、セシルの傍にいるだけだ。

 ……いつものルシアンだ。

 先ほどの違和感は緊張していたからなのだろうか。

 それとも、ルシアンが珍しく不安になっていたことが違和感の原因だったのだろうか。

 そんなことを思いつつ、セシルは行儀悪く机の上に両肘をついた。

 それから自身の頬に手のひらを当てて、ルシアンの話を待つ。

 いつでも話をしてくれて構わないと言いたげなは視線に気づいたのか。ルシアンは周囲を警戒するのを止めたふりをして、セシルに視線を向けた。

「僕の話を嘘だと思わないで聞いてくれる?」

 ルシアンの言葉に対し、セシルは何度も頷いた。

 前置きはいいから、早く話を聞きたいのだろう。

「僕はね。本当のルシアンじゃないんだ」

「ルシアンはルシアンだろ?」

「そうなんだけど。そうじゃないんだよ」

 ルシアンの言葉を聞き、早くもセシルは首を傾げていた。

 ……よくわからない。

 セシルはルシアンの小さい頃は知らない。

 辺境伯爵家に不幸があったという話も聞いたことがない。実子ではないという噂も、辺境伯爵家が養子を迎えたという噂も聞いたことがない。

 たとえ、公にできない秘密があったとしても、アクロイド侯爵家は手段を選ばずに情報を収集することだろう。溺愛している末っ子の友人に相応しくない相手ならば、セシルの意思を無視してでも、距離を取らせようとするはずだ。

 冗談を口にしているわけではないだろう。

 ルシアンは真剣だった。だからこそ、セシルは口を閉ざした。
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