上 下
22 / 30
第1話 犬猿の仲の婚約者

03-4.

しおりを挟む
「アレは最高に美味しかったからな。だから、今日はチョコレートが多いのか? ロイは俺が好きなものを集める才能があるな」

「そうだな。いつも、アストラのことを考えているからだろう」

 ロイは近くにあったチョコレートケーキを皿に取り、フォークで一口大に切り分ける。それを当然のようにアストラの口元に運んだ。

 ……美味しい。

 シェフの新作だろう。

 この日の為に改良を重ねたのに違いない。

 アストラはなんの抵抗もなく、口元に運ばれたケーキを食べながら、心の中でケーキを絶賛する。

「アストラ」

「なんだよ」

「お願いだ。俺を一人にしないでくれ」

 ロイの言葉に対し、アストラは鼻で笑った。

 ……悪い気はしない。

 乞われるのは慣れている。欲の籠った目を向けられるのも慣れている。慣れなければ、アストラは正気を失っていただろう。

 ……たまにはいいか。

 ロイも疲れているのかもしれない。

 疲れている婚約者を癒すのはアストラのやるべきことだ。ブラッドランス一族の魔性の魅力に抵抗をするように反発をし始め、十年目の反抗期を迎えたアストラも大人になる時が来た。

「約束してやる。ずっと、ロイといてやるよ」

 アストラはロイの肩に頭を寄せる。

 なにも意図はしていない。ただ、そうするべきだと思ったからしただけだ。

「アストラ」

 ロイは愛おしそうにアストラを呼ぶ。

「なんだよ」

 アストラはそれが妙に照れくさかった。

「愛している」

 ロイは愛の言葉を口にした。それから、流れに身を任せるようにアストラの唇に触れるだけの口付けをした。

 ……これ、好き。

 婚約が結ばれてから、なにかとキスをされる機会が増えた。最初は頬や額にされていたが、歳を重ねると唇にされるようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

殺されて退場する筈なのに主人公の愛が重い

春野ゆき
BL
途中で読むのを辞めた小説で弟子である主人公に殺されるキャラクター「アルネ」に転生した「俺」は殺される未来を変える為に主人公に愛情深く接すると決意する。そんな風に接していたら主人公に懐かれ過ぎてしまった。国内はずっと不穏だし、次々と事件が起こるけどシナリオはこれで合ってるのか? 旧題︰悪役だけど暴君主人公を良い子に育てます 攻めの幼少期から始まりますが、幼少期の頃の話はそんなに長くないです。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

処理中です...