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第1話 犬猿の仲の婚約者

02-5.

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 そこに個人の意志は関係ない。

 家の為に政略結婚をするのは、普通のことだった。

「貴族も平民も関係なく、家同士を結びつける政略的な婚約は破棄して、正しい愛を手に入れろって。頭のゆるい元第三王子の愛人様が語ってただろ」

 アストラは昨年耳にした言葉を語る。

 ……くだらない。

 第三王子は婚約破棄に伴う騒動により、王位継承権を剥奪され、平民として、一度は市街に放り出されたのだが、王宮の時計塔に幽閉されている。

 新たに婚約するつもりだったらしい平民の恋人が巻き起こした事件の首謀者として、王国軍に捕らえられたのが決定打になってしまった。

 ……あいつはバカになっただろ。

 事件の首謀者となり、恋人には逃げられた元第三王子は人が変わってしまったという噂を思い出した。かつての友人の成れの果てに同情をしてしまう。

「反乱軍の演説を聞いていたのか」

「聞きたくもなかったけどな。バカを取っ捕まえた友人が手の施しようがない流行だと、酔っ払うたびに語ってくるんだ」

「……そうか。その友人とは親しいのか?」

 ロイの問いかけに対し、アストラは手にしていたフォークで目の前のマカロンを刺した。お茶会の作法も、食事の作法もすべて無視だ。

「マーク・レイリングだ」

 アストラは友人の名を口にする。

 友人関係に口を出されるのは慣れている。しかし、心地良いものではない。

「ロイに俺の友人だと紹介しただろうが。まだ不満か?」

「いや、すまない。そういうつもりではなかった」

「嘘つくなよ。牽制しようとしてやがったくせに。ロイの性格は俺が一番わかってんだから」

 アストラは器用にマカロンの中に隠れていたアーモンドを発掘し、アーモンドだけを取り出して食べた。

「マークは第四王子殿下の婚約者だからな。手を出すのはやめとけよ。友人と殺し合いなんてごめんだ」

 アストラは粉々になったマカロンをスプーンで掬い、口の中に入れる。食べ物で遊んでいるように見えるが、無駄にすることはしない。

 食べ物を台無しにするように食べるのは、いらついている時の癖だった。

「アストラ。悪かった」

「わかればいい」

 アストラはロイの謝罪を素直に受け止める。
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