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第1話 犬猿の仲の婚約者

01-9.

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「そうか。ジェット二世を預ける。丁重に世話をしろ」

「かしこまりました。アストラ様はいかがなさいますか?」

「俺はロイのところにいく。あの野郎に事情を説明してもらわねえと気がすまないんでな!」

 アストラはジェット二世から降りる。

 貴族街を走り抜けたのだ。疲れていることだろう。

「ありがとな。よく休めよ」

 アストラはジェット二世のたてがみを撫ぜ、礼を尽くす。相棒の望みを叶えたことを自慢に思っているのか、ジェット二世は声を上げた。

 ……あの野郎がいるのは、執務室か?

 首都にある大公邸の間取りも、大公領にある邸宅の間取りも、アストラはある程度は把握している。幼い頃から頻繁に行き来をしていた為、自然と覚えてしまった。

 視線をロイの執務室があるあたりに向ける。

 露骨なまでにカーテンが開けられており、一部始終を観察していたらしいロイはアストラに軽く手を振った。

「見てやがったのかよ!」

 アストラは反射的に叫ぶ。

 手を振り返さない。その代わり、握りしめたままだった新聞を地面に叩きつけたい衝動に駆られたが、なんとか堪える。

「性悪男が」

 アストラが手にしているのはロイの浮気疑惑の証拠だ。

 これがあれば、いつものように嫌がらせの作り話だと軽く流されることはないはずだ。

 ……誘い出されたようで気分が悪い。

 アストラは無言で歩き出す。

 その様子を嫉妬で燃え尽きそうな目で見つめていたメイドがいるのは、知っていたが、アストラは気にもしない。

 そもそも、アストラの問いかけにすら応えない非常識な人間を相手にする価値を、アストラにはわからなかった。

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