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第1話 犬猿の仲の婚約者
01-2.
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惰眠を貪っている間はなにも考えなくてすむ。
それは現実逃避のようなものではあったが、アストラは止められなかった。
「ローザ」
アストラはメイド、ローザの名を呼んだ。
夢見が悪かったからか。気怠そうな表情をしているアストラに対し、一瞬、ローザの動きが止まった。
アストラが幼い頃から世話をしている熟練のメイドでさえも、ブラッドランス一族の魔性の魅力には目を奪われてしまう。
「はい、坊っちゃま。どうなされましたか?」
ローザはすぐに切り替えた。
ブラッドランス侯爵邸で働く使用人たちは、強靭の精神力を持たなければならない。
「ロイに会いに行く」
アストラは迷いなく答えた。
婚約者のロイは、今、首都にある大公邸に滞在している。事前に送られてきた用件だけの短い手紙に対し、長々と返信を綴った覚えがあった。
「茶会の約束を取り付けたからな。俺の好物ばかりを準備しておくと言われたから、参加するしかないだろ」
今日は約束の日だ。
素っ気ないことを言いつつも、アストラは初恋を諦めれなかった。
幼い頃の理想像とは正反対の意地悪な人であり、炎のように激しい執着心と独占欲を隠そうともしない。
ロイはアストラを手放す気もないくせに、度々新聞に載せられるほどに派手な女性関係を持っていると噂されている。
それはローザも知っていた。
だからこそ、アストラの言葉に対して複雑な表情を浮かべていた。
「大公領に行く日程を決めるんだとさ。そんなことはお父様と話せばいいのに。俺の意見がどうしてもほしいんだってさ」
アストラは手紙の内容に満足していた。言葉では興味のなさそうなことを言ってはみるものの、ロイと話をしてなにかを決めるのは好きだった。
……結婚後の決め事も話さないとな。
アストラは自分の感情に素直な性格だ。
自分の思い通りに進まなければ、駄々をこねるし、それでも、どうしようもない時は躊躇せずに侯爵家の権力を使う。
……俺は愛人を許してやるほどに心が広くねえからな。
王太子に嫁いだ一番上の姉を思い出していた。
それは現実逃避のようなものではあったが、アストラは止められなかった。
「ローザ」
アストラはメイド、ローザの名を呼んだ。
夢見が悪かったからか。気怠そうな表情をしているアストラに対し、一瞬、ローザの動きが止まった。
アストラが幼い頃から世話をしている熟練のメイドでさえも、ブラッドランス一族の魔性の魅力には目を奪われてしまう。
「はい、坊っちゃま。どうなされましたか?」
ローザはすぐに切り替えた。
ブラッドランス侯爵邸で働く使用人たちは、強靭の精神力を持たなければならない。
「ロイに会いに行く」
アストラは迷いなく答えた。
婚約者のロイは、今、首都にある大公邸に滞在している。事前に送られてきた用件だけの短い手紙に対し、長々と返信を綴った覚えがあった。
「茶会の約束を取り付けたからな。俺の好物ばかりを準備しておくと言われたから、参加するしかないだろ」
今日は約束の日だ。
素っ気ないことを言いつつも、アストラは初恋を諦めれなかった。
幼い頃の理想像とは正反対の意地悪な人であり、炎のように激しい執着心と独占欲を隠そうともしない。
ロイはアストラを手放す気もないくせに、度々新聞に載せられるほどに派手な女性関係を持っていると噂されている。
それはローザも知っていた。
だからこそ、アストラの言葉に対して複雑な表情を浮かべていた。
「大公領に行く日程を決めるんだとさ。そんなことはお父様と話せばいいのに。俺の意見がどうしてもほしいんだってさ」
アストラは手紙の内容に満足していた。言葉では興味のなさそうなことを言ってはみるものの、ロイと話をしてなにかを決めるのは好きだった。
……結婚後の決め事も話さないとな。
アストラは自分の感情に素直な性格だ。
自分の思い通りに進まなければ、駄々をこねるし、それでも、どうしようもない時は躊躇せずに侯爵家の権力を使う。
……俺は愛人を許してやるほどに心が広くねえからな。
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