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第0話 初恋の思い出
01−3
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……一緒にいたいな。
八歳の遅い初恋だ。
淡い恋心は思考を鈍らせる。だからこそ、本能としてロイを必要以上に見つめてしまったのだろう。
外見だけが目的でも構わない。
人形のように着飾ることを求められても、嬉々として叶える。
アストラは恋をした相手に一途だった。恋しい人といられるのならば、手段を選ばない。
「ロイ様と呼んでもいいですか?」
アストラの問いかけに対し、ロイは眉をひそめた。
……気に入らなかったか?
言葉の選択を間違えたようだ。
今まで相手をしてきた皇族や貴族たちのようにはいかない。
「いや、ロイでかまわないよ。敬称は必要ないから」
ロイは紳士的な対応をした。
年下には優しく声をかけるのが、習慣になっているのだろうか。
「侯爵。父上から伝言を預かってます」
「なんだ。また大公領に遊びに来いというなら、こちらの条件を受け入れてもらわないと話にならんが?」
「侯爵が提示した条件の返答です」
ロイは視線をアストラに向けたまま、話を進める。
その話はアストラが聞いていても問題のないものなのだろう。
……大公のおじさま、おばさまと遊びたいな。
アストラは何度か大公領に出向いたことがある。毎回のようにロイは不在であった為、会ったことはなかったのだが、代わりに大公夫妻から我が子のようにかわいがわられていた。
アストラは大公夫妻がお気に入りだ。
皇帝夫妻や皇族の子どもたちよりも、大公夫妻や大公領の人々を優先してしまうほどに好ましかった。
それは、アストラをブラッドランス侯爵家の次男としてではなく、アストラという八歳の子どもとして接してくれていたからだろう。
「婚約の件、受け入れましょう。ですが、こちらの提示した条件も受け入れていただきます」
ロイは大公の代理として、侯爵家に足を運んだのだ。アストラが顔を見せる前に用件を伝えなかったのは、偶然だろうか。
「かまわない。大公子の一存に任すと言っていたからな。我が子の中から好きなのを選ぶと良い」
父親は大公家に婚約の提案を持ちかけていた。
皇帝の管理外と呼ばれる帝国唯一の完全なる自治が許された大公家と、血縁関係を結ぶのは、貴族ならば誰もが夢を見る絶好の機会だ。
大公は皇帝の下にはいるものの、大公の意志は固く、皇帝の要求に応えないことも少なくない。
だからこそ、父親はブラッドランス侯爵一族の権威を高める為には、どうしても血縁関係という確固な関係を築きたかったのだ。
「気前が良いことで。両親もさぞ喜ぶことでしょう」
ロイは握手をしていた手を離す。
それに対し、寂しそうな視線を向けてきたアストラに気づいたのだろう。
「えっ!?」
ロイは軽々とアストラを抱き上げた。
突然のことにアストラは戸惑った声を上げる。
「アストラを婚約者にもらいます。かまいませんね?」
ロイの発言は、あっという間に帝国中に広まることになる。
こうして、ブラッドランス侯爵家の次男、アストラは大公家に嫁に出されるのが決まったのだが、それは多くの波乱を呼ぶことになるのだった。
八歳の遅い初恋だ。
淡い恋心は思考を鈍らせる。だからこそ、本能としてロイを必要以上に見つめてしまったのだろう。
外見だけが目的でも構わない。
人形のように着飾ることを求められても、嬉々として叶える。
アストラは恋をした相手に一途だった。恋しい人といられるのならば、手段を選ばない。
「ロイ様と呼んでもいいですか?」
アストラの問いかけに対し、ロイは眉をひそめた。
……気に入らなかったか?
言葉の選択を間違えたようだ。
今まで相手をしてきた皇族や貴族たちのようにはいかない。
「いや、ロイでかまわないよ。敬称は必要ないから」
ロイは紳士的な対応をした。
年下には優しく声をかけるのが、習慣になっているのだろうか。
「侯爵。父上から伝言を預かってます」
「なんだ。また大公領に遊びに来いというなら、こちらの条件を受け入れてもらわないと話にならんが?」
「侯爵が提示した条件の返答です」
ロイは視線をアストラに向けたまま、話を進める。
その話はアストラが聞いていても問題のないものなのだろう。
……大公のおじさま、おばさまと遊びたいな。
アストラは何度か大公領に出向いたことがある。毎回のようにロイは不在であった為、会ったことはなかったのだが、代わりに大公夫妻から我が子のようにかわいがわられていた。
アストラは大公夫妻がお気に入りだ。
皇帝夫妻や皇族の子どもたちよりも、大公夫妻や大公領の人々を優先してしまうほどに好ましかった。
それは、アストラをブラッドランス侯爵家の次男としてではなく、アストラという八歳の子どもとして接してくれていたからだろう。
「婚約の件、受け入れましょう。ですが、こちらの提示した条件も受け入れていただきます」
ロイは大公の代理として、侯爵家に足を運んだのだ。アストラが顔を見せる前に用件を伝えなかったのは、偶然だろうか。
「かまわない。大公子の一存に任すと言っていたからな。我が子の中から好きなのを選ぶと良い」
父親は大公家に婚約の提案を持ちかけていた。
皇帝の管理外と呼ばれる帝国唯一の完全なる自治が許された大公家と、血縁関係を結ぶのは、貴族ならば誰もが夢を見る絶好の機会だ。
大公は皇帝の下にはいるものの、大公の意志は固く、皇帝の要求に応えないことも少なくない。
だからこそ、父親はブラッドランス侯爵一族の権威を高める為には、どうしても血縁関係という確固な関係を築きたかったのだ。
「気前が良いことで。両親もさぞ喜ぶことでしょう」
ロイは握手をしていた手を離す。
それに対し、寂しそうな視線を向けてきたアストラに気づいたのだろう。
「えっ!?」
ロイは軽々とアストラを抱き上げた。
突然のことにアストラは戸惑った声を上げる。
「アストラを婚約者にもらいます。かまいませんね?」
ロイの発言は、あっという間に帝国中に広まることになる。
こうして、ブラッドランス侯爵家の次男、アストラは大公家に嫁に出されるのが決まったのだが、それは多くの波乱を呼ぶことになるのだった。
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