上 下
3 / 30
第0話 初恋の思い出 

01−3

しおりを挟む
 ……一緒にいたいな。

 八歳の遅い初恋だ。

 淡い恋心は思考を鈍らせる。だからこそ、本能としてロイを必要以上に見つめてしまったのだろう。

 外見だけが目的でも構わない。
 人形のように着飾ることを求められても、嬉々として叶える。

 アストラは恋をした相手に一途だった。恋しい人といられるのならば、手段を選ばない。

「ロイ様と呼んでもいいですか?」

 アストラの問いかけに対し、ロイは眉をひそめた。

 ……気に入らなかったか?

 言葉の選択を間違えたようだ。
 今まで相手をしてきた皇族や貴族たちのようにはいかない。

「いや、ロイでかまわないよ。敬称は必要ないから」

 ロイは紳士的な対応をした。

 年下には優しく声をかけるのが、習慣になっているのだろうか。 

「侯爵。父上から伝言を預かってます」

「なんだ。また大公領に遊びに来いというなら、こちらの条件を受け入れてもらわないと話にならんが?」

「侯爵が提示した条件の返答です」

 ロイは視線をアストラに向けたまま、話を進める。
 その話はアストラが聞いていても問題のないものなのだろう。

 ……大公のおじさま、おばさまと遊びたいな。

 アストラは何度か大公領に出向いたことがある。毎回のようにロイは不在であった為、会ったことはなかったのだが、代わりに大公夫妻から我が子のようにかわいがわられていた。

 アストラは大公夫妻がお気に入りだ。

 皇帝夫妻や皇族の子どもたちよりも、大公夫妻や大公領の人々を優先してしまうほどに好ましかった。

 それは、アストラをブラッドランス侯爵家の次男としてではなく、アストラという八歳の子どもとして接してくれていたからだろう。

「婚約の件、受け入れましょう。ですが、こちらの提示した条件も受け入れていただきます」

 ロイは大公の代理として、侯爵家に足を運んだのだ。アストラが顔を見せる前に用件を伝えなかったのは、偶然だろうか。

「かまわない。大公子の一存に任すと言っていたからな。我が子の中から好きなのを選ぶと良い」

 父親は大公家に婚約の提案を持ちかけていた。

 皇帝の管理外と呼ばれる帝国唯一の完全なる自治が許された大公家と、血縁関係を結ぶのは、貴族ならば誰もが夢を見る絶好の機会だ。

 大公は皇帝の下にはいるものの、大公の意志は固く、皇帝の要求に応えないことも少なくない。

 だからこそ、父親はブラッドランス侯爵一族の権威を高める為には、どうしても血縁関係という確固な関係を築きたかったのだ。

「気前が良いことで。両親もさぞ喜ぶことでしょう」

 ロイは握手をしていた手を離す。

 それに対し、寂しそうな視線を向けてきたアストラに気づいたのだろう。

「えっ!?」

 ロイは軽々とアストラを抱き上げた。

 突然のことにアストラは戸惑った声を上げる。

「アストラを婚約者にもらいます。かまいませんね?」

 ロイの発言は、あっという間に帝国中に広まることになる。

 こうして、ブラッドランス侯爵家の次男、アストラは大公家に嫁に出されるのが決まったのだが、それは多くの波乱を呼ぶことになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

無気力令息は安らかに眠りたい

餅粉
BL
銃に打たれ死んだはずだった私は目を開けると 『シエル・シャーウッド,君との婚約を破棄する』 シエル・シャーウッドになっていた。 どうやら私は公爵家の醜い子らしい…。 バース性?なんだそれ?安眠できるのか? そう,私はただ誰にも邪魔されず安らかに眠りたいだけ………。 前半オメガバーズ要素薄めかもです。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

とうや
BL
【6/10最終話です】 「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」 王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。 あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?! 自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。 ***********************   ATTENTION *********************** ※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。 ※朝6時くらいに更新です。

処理中です...