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第0話 初恋の思い出 

01−1.

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 執務室で仕事の打ち合わせをしている父親の様子を覗き見るのが、八歳の頃の趣味だった。すぐに飽きてしまうだろうと家族から優しい目で見守られ、すくすくと自己中心的なわがままへと育ちつつある侯爵家の次男、アストラ・ブラッドランスは一目惚れをした。

 ……誰だ?

 見たことがない青年の姿に心がときめく。

 ……お父様の仕事相手?

 扉の隙間から顔を出すだけでは、青年の顔がはっきりと見えない。

 音をできる限り出さないように気をつけながら、アストラは扉を開け、執務室に足を踏み入れる。

 父親は気づいたようだったが、聞かれても構わない話だったのか、アストラを咎めなかった。

 ……大きい。お父様と同じくらいか?

 遠慮なく、青年の隣に立つ。

 青年の整った顔を眺めるアストラの目は宝石のように輝いており、穴が空きそうなほどに強く見つめている。

 ……かっこいい。

 アストラの家族は優れた容姿の持ち主ばかりだ。おとしやかにしていれば、人形のようだと言われる美貌の母から産まれたアストラも両親譲りの容姿の持ち主だ。

 しかし、青年のような人は初めてだった。

 紳士的な見た目をしており、優しげな顔立ちは老若男女問わず好かれることだろう。

 ……大公のおじさまに似てるかも。

 どことなく、雰囲気がかわいがってくれる父親の友人と似ているような気がした。

 ……いいなぁ。

 自分だけのものにしたいという漠然とした欲を抱く。それは宝物を隠して独り占めしようという子どもの考えであり、将来を見据えたものではなかった。

「……侯爵。こちらの坊っちゃんは侯爵のお子様で?」

 視線に耐えかねたのか。

 青年はアストラに視線を向け、アストラの父親に問いかけた。

「そうだ」

 父親は肯定する。

 アストラが青年に目を向けるのは想定内だった。

「次男のアストラだ。最近は執務室に来ることにはまっていてな。今日は見たことない君がいたから、中に入ってきたのだろう」

 父親はアストラの言動に寛容だった。

 侯爵家を継ぐ嫡男の兄との仲も良好であり、年齢の近い姉たちからもかわいがられ、さらに、後妻である義母とも良好な関係を築いている。

 侯爵家の家庭環境が円満なのはアストラのおかげといっても、過言ではないだろう。

「アストラ。お父様の大事な仕事相手のロイ・ファントム大公子だ。挨拶をしなさい」

 父親に言われ、アストラは青年、ロイ・ファントムに対して人が良さそうな笑顔を見せた。

 多くの人はアストラを無条件でかわいがる。

 ブラッドランス侯爵家は必要ならば悪事に手を染める一族として名が知られているが、その血が濃い者は、見た目が整っていた。

 その為、悪事がばれても見た目が皇帝の好みというとんでもない理由で罰を与えられることなく、平然と生き残ってきたとんでもない一族である。

 アストラも自分の見た目が優れていると理解していた。だからこそ、わざとらしく、笑顔を見せるのだ。
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