上 下
60 / 82
第二話 『悪役令息の妹』の元婚約者に追われている

04-4.

しおりを挟む
「そうか。名は?」

 ブラッドは女性の態度を指摘しない。

 彼女が単独でした行為なのか。それとも、複数人が関わっているのか、わからないからだ。状況を正しく理解する為には、情報が足りなかった。

 ……名乗らないか?

 ブラッドの問いかけに対し、女性は俯いた。

 表情が見えないようにしているのだろう。わざとらしい仕草は天然のものではなく、どうすれば相手の同情を引けるのか、計算をし尽くしたものである。

 ……嫌がらせには退屈すぎるな。

 同性の相手を妻として迎え入れることに対して、少なからず反発はあるだろう。特殊な技法によって編み出された魔方陣を体に描き込み、条件をすべて満たすことができれば、一時的に子を成すことができる体になる。

 それは魔法を使える貴族にとって、常識の一つだった。

 しかし、貴族出身でなければ、理解のできないことだろう。

 ……ある程度は覚悟はしていたが。

 よりにもよって、ブラッドは、好みであれば男女関係なく手を出す節操なしの悪役令息として有名になっている。その悪い噂の原因となっているのは、社交界の場で一緒にいることが多かったギルベルトたちの悪癖によるものなのだが、真相を知る者は多くはないだろう。

 噂というものは、そういうものである。

 真相を探ろうとする者は少ない。社交界の面白おかしく広まっていく悪い噂を真に受けた市民に、貴族相手でなくても手を出せるのかと声を掛けられたことさえもある。

 それらの経験を踏まえ、ブラッドは覚悟を決めていた。

「リリィ・グリムです。グリム男爵家の四女になります」

 女性、リリィ・グリムは覚悟を決めたように答えた。

 ……四女?

 グリム男爵家の存在は知っている。

 現存している貴族の中で、もっとも早く没落することになるだろうと言われている家系だ。

 多くの子には恵まれたものの、その多くを社交界にデビューさせるだけの金銭には恵まれず、男爵の地位こそは保っているものの、領地は与えられていない。

 ……商人の方が金に恵まれていると噂の男爵家か。

 エーデルワイス王国の中で領地を与えられている貴族は限られている。

 その多くは伯爵家や侯爵家であり、中には王族が降嫁したことにより新たに授けられた三つの公爵家や、現王弟が治める大公家も領地を持つ貴族である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...