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第二話 『悪役令息の妹』の元婚約者に追われている

03-3.

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「昨日のことを忘れたのかよ」

 意識が飛ぶまで交じり合っていたことを思い出しただけで、ブラッドの頬はうっすらと赤くなる。

「俺はアルバートのことが好きなんだよ。それなのに、他人に対して思わせぶりなことをするわけねえだろ」

 素っ気ない言い方しかできない。

 それでも、誤魔化すことはしなかった。

「煽るのも、我慢しねえのも、さっ、触ってほしいのだって、お前だけなんだからな」

 恥ずかしさから目を逸らしてしまう。

 ……キスで黙らせるとか方法はあるだろうが。

 アルバートは何を考えているのだろうか。

 気まずい雰囲気を察しつつも、ブラッドは言葉を止めるわけにはいかなかった。

 続きは家に帰ってからと焦らされたまま、仕事をしていた影響が強い。

 腹の奥が疼いて仕方がない。

 触れ合いたくて、触りたくて、触ってほしくて仕方がない。

 察してもらうまで待つことはできなかった。

「な、なんとか言えよ。俺だけに言わせて満足してるならぶん殴るからな!」

 何が言いたいのか、ブラッドもよくわかっていない。

 ただ、感情のままに言葉を口にしているだけだ。

「ブラッド」

 アルバートは愛おしそうにブラッドを見下ろす。

「俺は狂おしいほどに愛している」

 淡々とした言い方だった。

 アルバートは幼い頃から感情を表現することに対し、苦手意識があった。顔に出にくいこともあり、今も、ほとんど表情は変わっていない。

 不愛想だと言われることも多かった。

 それでも、ブラッドに向ける表情だけは僅かに変化がある。

「だからこそ、不用意に煽るのは止めるべきだ」

 顔を近づける。

 それだけでブラッドの頬は赤みを増していく。

「俺が止まらなくなると困るのは、ブラッドだろう」

 頬に触れるだけの口付けだ。

 まるで宝物を壊すことを恐れ、触れられない子どものようだった。

 それをブラッドは受け止めることはできない。
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