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第二話 『悪役令息の妹』の元婚約者に追われている

02-5.

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 なにより、ここで声をあげれば寝たふりをしていることがウォルトに気付かれてしまう。

「……嫁?」

 ウォルトは理解ができなかったのだろう。

 何度も瞬きをして、思わず口にしてしまった言葉の意味を考える。

「ブラッドが結婚したなんて僕は聞いてないぞ!!」

「侯爵家の婚姻に関してわざわざ殿下に報告をする必要もないのでは?」

「お前の結婚には興味がない! でも、ブラッドに関しては話が違う!!」

 ウォルトは困惑を隠せていなかった。

 声を張り上げてみたものの、理解ができないと言わんばかりの表情を浮かべ、力が抜けたような動きを見せる。

「ウォルト様。陛下に確認してみましょう?」

 今にも座り込みそうなウォルトを背後から支えたのは、ウォルトよりも小柄な少女だった。

「ミレイ」

 ウォルトは安心したかのような声で少女、ミレイの名を呼んだ。

 愛おしそうな声で名前を呼ぶ。

 その声さえもブラッドにとっては不快でしかなかった。

 ……起きているとは知られなくない。

 起き上がってしまえば、ウォルトは水を得た魚のような勢いで迫ってくるのが目に見えている。だからこそ、不敬だと責められるのを覚悟したうえで寝たふりをしたのだ。

 ……でも。

 心が揺らいでしまう。

 ウォルトが愛おしそうな声で名を呼んだ少女こそが、キャロラインが婚約破棄に追い込まれた元凶である。

 ……ぶん殴ってやりたい。

 不敬等と気にすることもなく、振る舞いたい気持ちが強まる。

 最愛の妹を傷つけた元凶を前にして、寝たふりをし続けるのは限界だった。

「ウォルト様。今日は帰りましょう?」

「……そうだな。ミレイが言うなら」

 事前の通達もなく、第二騎士団の執務室を訪れたことを忘れたのだろうか。

 ウォルトはミレイの言葉に従うように執務室から出ていった。

「もういいぞ」

 アルバートの声を聞き、ブラッドは顔を上げる。

 それから、遠慮なくアルバートの腕を振り払った。
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