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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

06-29.※

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「背中の留め具を下ろしてくださいませ」

「留め具?」

「はい。エステルがデザインしたドレスには特注で付けられておりますの。着替えの時間を短くする為の工夫だそうですわ」

 アデラインはメルヴィンに抱き着く姿勢のまま、告げた。

 脱がしたいのならば、脱がせばいい。恋い慕う人に見せられないような肌はしていない。アデラインの自信に満ちた声を聞き、メルヴィンは興奮を煽られたような気分だった。

 本来、ドレスは着るのも脱ぐのも、メイドの手を借りなければならない。

 一般的には、性行為に及ぶ時には夜が多く、簡易的な寝間着を身に付けるのは簡単に脱がせられるようにする為でもあるのだろう。特に夫婦で寝室を強要する場合、下着のようなデザインの寝間着を身に付けることもある。

 エステルが用意したドレスは、それらを意識したわけではなかった。

 着替えの時間まで他人の手を借りなければならないことに嫌悪感を示し、長い時間、着せ替え人形のように扱われる時間をなによりも嫌がった結果、短時間で着替えができるドレスを提案したのだ。

 まさか、それがこんな形で役に立ってしまうとはエステルにとっても想定外だっただろう。

「義妹君に助けられたな」

 メルヴィンはアデラインのドレスに巧妙に隠されていた留め具に手をかける。下に引っ張ればドレスを簡単に脱ぐことができる仕掛けになっていた。

「……あの子には言わないでくださいませ。手が付けられなくなりますわ」

 アデラインはエステルが怒り狂う姿を思い浮かべてしまった。

 エステルはアデラインを義姉として慕っている。

 家族の中でも特に仲が良いと自負しており、優先されるべきなのは義姉妹で過ごす時間だと本気で口にするだろう。

「伝える義理はないな」

 メルヴィンは留め具を外し、肩から滑り落ちたドレスに視線を向けた。

 ……恥ずかしいものですわね。

 アデラインがメルヴィンに抱き着いている限り、ドレスは下に落ちない。しかし、半分脱がされたままの状態で居続けるわけにはいかなかった。

 意を決して、アデラインはメルヴィンの背中に腕を回すのを止めた。

 それから僅かに姿勢を直す。

 胸に乗る形となったドレスは欲情を煽るものだった。

「脱がせてもいいか?」

 メルヴィンの問いかけに対し、アデラインは静かに頷いた。
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