男装の悪役令嬢は、女嫌いで有名な騎士団長から執着されて逃げられない

第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

０６－２６．

　それを反省したのは良いことだ。今後に期待できるだろう。

「そう、ですの。素晴らしいことと存じますわ」

　アデラインは体の疼きを堪えながら返事をする。

　メルヴィンとキスをしてから、妙に体が疼いてしかたがなかった。

「アデライン」

　メルヴィンはアデラインの頬に手を伸ばす。

　優しく触れられているだけなのにもかかわらず、感覚は敏感になっているかのように手の温もりに意識が向いてしまう。

　宝物を扱うような優しい手つきだ。

　その手つきで敏感なところに触れられてしまえば、今までは知ることもなかった快感の渦の中に投げ込まれてしまうだろう。

「メルヴィン様」

　アデラインは蕩けた視線のまま、問いかける。

「私になにを望んでおりますの？」

　その問いかけは拒絶ではない。

　アデラインはメルヴィンの望みがわからなかった。寝室に入るように誘導をされ、流されるようにベッドの上に座らされても、なにが目的なのか見当もつかない。

　ぼんやりとしている頭では上手く思考回路が動かない。

　状況を整理し、考えてみればメルヴィンの求めていることも理解できるかもしれないが、今のアデラインには難しかった。

「……恋人としての営みをしたい」

　メルヴィンは言葉を選びつつ、本音を口にした。

　品のない言葉で直接的に訴えれば、アデラインにもすぐに伝わっただろうが、それを拒否されるのではないかと恐れていた。

「デートをしましたわ」

　アデラインは首を傾げながら、返答を口にする。

「それでは満足なさらないの？」

　アデラインの言葉に深い意味はない。

　……物足りなかったのかしら。

　鍛冶屋に行くだけのデートプランを立てたのはメルヴィンだ。

　アデラインを喜ばせようとするのならば、アデラインが好んでいる演劇や流行りの喫茶店にも行くべきだった。

　……私はメルヴィン様と一緒ならば、どのようなことだって、楽しめるのに。

　それをアデラインは指摘しない。

　鍛冶屋に行くだけのデートでも、アデラインは満足していた。