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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

02-13.

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 ……最低ですわ。

 初恋の人との初めてのキスは、想いを通わせてからしたかった。

 それが叶わないとしても、せめて、アデラインとして見てほしかった。

「止めてください。メルヴィン騎士団長」

 触れるだけのキスはすぐに終わった。

 それ以上のことをしようとしないのは、メルヴィンが慣れていない証拠だ。

「貴方は、婚約者がいらっしゃるでしょう」

 アデラインは涙を拭う。

 触れただけの唇が熱を持つ。それは不快ではなかった。

「貴方が女性嫌いなのは知っております。ですが、なにも、私を選ぶことはないでしょう。男性がよろしいのならば、どうぞ、私以外の方をお選びください」

 アデラインはメルヴィンの体を押しのけるように、両手で彼の肩を押す。

 距離が近いとは思っていた。

 ……酷い裏切りを受けた気分ですわ。

 それなのに抱いてしまっている淡い恋心は色褪せてくれない。

「……なぜ、そんなことを考える?」

「当然のことでしょう。貴方の婚約者がどのような方なのか、知っているからこそ、私は選ばれるわけにはいかないのです」

 アデラインの言葉はメルヴィンには届かない。

 それならば、補佐役のアディとして必死に訴えるしかない。

「……そうか」

 メルヴィンは諦めたのだろうか。

 数歩、後ろに下がる。

「君はダイヤモンドリリーを知っているか?」

 メルヴィンの問いかけに対し、アデラインは視線を動かした。

 ……どうして。

 ダイヤモンドリリーは花弁が宝石のように輝く白や赤の花だ。年間気温の低い王国では自生することはなく、市場に出回ることも少ない。

 ……あの日のことを、覚えているのですか?

 問いかけたい気持ちを抑え込む。

 露骨に黙ってしまったアデラインの様子からメルヴィンは察しているだろう。それでも、それを言葉にすることができない事情があることにも気づいているはずだ。

「問いかけに答えないか」

 メルヴィンは追及するつもりはないのだろうか。
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