悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０２－１４．

　先ほど告げられた言葉と同じとは思えないほどに心が満たされる。

　無意識に、ディーンはアレンにすり寄るように頭を動かしていた。

「どこにも行かなくていい。俺と一緒にいよう」

　アレンの言葉に対し、ディーンは僅かに首を傾げた。

「ずっと、一緒にいよう」

　……アレンと一緒にいる？

　違和感はある。

　しかし、アレンの言葉に従ってしまいたいという欲求に逆らえない。

　……どうして。

　その言葉に従ってしまいたい。

　……どうやって？

　それなのにもかかわらず、返事ができなかった。

「ディーン」

　アレンは愛おしそうに名を呼んだ。

「俺の為だけにSubになってくれないか？」

　アレンの言葉に対し、ディーンはゆっくりと口を開いた。

「どうすれば、いい？」

　ディーンはDomとして振る舞ってきた。

　侯爵家ではSubになってはいけないと言われ続け、Switchであることに気づかれないように振る舞うことが日常となっていた。

「アレン」

　それは、ディーンが選んだわけではない。

　自ら望んでDomとして振る舞ってきたわけではない。

　父親の言葉は絶対だった。

　侯爵家では父親に逆らって生きていくことはできない。

　それは、兄妹の中では、一番、父親に愛されているディーンにとっても変えることができない絶対的な決まりだった。

「どうしたら、Subになれるんだよ」

　やり方がわからないと泣く子どものような顔をしていた。

　アレンの言葉に従い、それ通りに振る舞い、褒められたい。

　強い欲求がディーンの心を支配し始めているのにもかかわらず、どうすれば、アレンの望みを叶えられるのか、わからなかった。

「教えてくれよ。アレン」

　教えを乞う。

　命令を乞う。

　そうすれば、ディーンはアレンの言葉に従うことができる。