悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０２－１０．

　このまま、キスをされるのではないだろうか。

　そう思わせるほどに顔が近づく。

　……俺のファーストキス！

　覚悟を決める。

　両目を固く閉じ、するならしろと言わんばかりの顔をした。

　……こないな？

　迷っているのだろうか。

　両頬を掴んでいたアレンの手が離れ、しばし、無言が続く。

「ふっ」

　笑い声がした。

　それと同時に機械的な音がする。

　……“カシャ”？

　魔力が込められた石を加工して動かしているものの、世間ではあまり流通していないカメラと呼ばれている機械を手にしたアレンと目が合った。

　写真を撮られたようだ。

「……なんだよ」

　キスをされるのではないかと期待していたわけではないと、言いたげな表情をわざとらしく浮かべるディーンに対し、アレンは満足そうな顔を浮かべている。

「おい。なんか言えよ」

「なにかとは？」

「今、俺の顔を見て笑ってただろ！　その理由を話せって言ってんだよ！」

　……顔は良いんだよな。顔は。

　対照的な振る舞いをするアレンに対し、ディーンは視線を外せない。

　心の中でアレンの見た目を絶賛してしまうのは、仕方がないことだ。

　……顔だけは好みなんだよ。つか、嫌いになる奴なんていないだろ！　こんなに顔が良いんだから！

　心の中で大きな言い訳をする。

「おい。聞いてんのか？」

「聞いている」

「それなら、理由を話せよ。なんで俺を見て笑ってんだよ」

　社交界でも親しい間柄とは言えない。

　言葉を交わしたと思えば、殴り合いに発展しかねないような言い争いになってしまうのも珍しくはなかった。

　しかし、ディーンはアレンのことが嫌いではなかった。