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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

02-8.

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 そもそも、脅迫をされていなければ、アレンを訪ねることもしなかっただろう。

 そうしなければ、アレンはディーンに想いを告げることさえもできなかったのかもしれない。

 もしくは、ディーンを手に入れる為の手段として情報収集をした結果、脅迫できるような内容ばかりが集まったのかもしれない。

 どちらにしても、手段は最悪だった。

「約束してほしいことがあるんだけど」

「なんだ。言ってみろ」

「ヘンリエッタの後ろ盾になってくれ。あの子は侯爵家では生きていけない」

 事情を知らない相手に打ち明ければ、変な目で見られることだろう。

 しかし、アレンは侯爵家の事情を知っている。

 本来ならば、侯爵家の権力で隠し通せているはずの内部事情まで熟知していることだろう。

「表立って庇ってやってほしいとは言わない。今更、そんな態度ができるとは思わねえし」

 ……使えるものは、なんでも使う。

 ディーンはそれを利用することにした。

 そうすることでしか、ヘンリエッタを庇うことができなくなるとわかっているからこその提案だった。

 ……ヘンリエッタは怒るだろうな。

 ディーンはヘンリエッタを気にかけている。

 しかし、特別仲が良いわけではない。

 ヘンリエッタにとっては、ディーンも自分を気にかけてくれない父親や兄たちと同じように見えているかもしれない。

 そのことをディーンもわかっている。

 ……余計なことをするなと怒るだろうな。

 気にかけてもくれないくせに、自分を犠牲にするのかと怒り狂うヘンリエッタの姿を想像することができる。

 そんなことを望んではいなかったとヘンリエッタは、泣き叫ぶだろう。

 それを慰めることさえも、ディーンにはできない。

 ……ごめんな。ヘンリエッタ。

 直接、ヘンリエッタに謝罪の言葉を告げたことはない。

 告げたところで、ヘンリエッタは困惑するだけだろう。

 ……なにもしてやれなくて、ごめんな。

 父親や他の兄たちと違い、ディーンはヘンリエッタに危害を与えたことはない。
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