悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０２－４．

「いいだろう」

　だからこそ、ディーンは話を最後まで聞く前に返事をしてしまった。

「手に入れてやる。何が欲しいんだ？」

　大公家の人間が手に入らないものが、侯爵家の次男に手に入るとは考えにくい。

　そのことを深く考えず、即答したディーンに対し、アレンは笑った。

「は？　なんだよ。なにがおかしいんだよ」

　ディーンは不愉快だと言わんばかりの表情を浮かべた。

　逃げ出さないように掴まれていた手を離され、そのまま、アレンはディーンの頬に手を当てる。

「ディーンがほしい」

　アレンの告げた言葉に対し、ディーンは何度も瞬きをした。

　……は？

　同じ名前の物があっただろうか。

　いや、ディーンは人間の名前だ。

　そして、アレンの瞳に映し出されているのは自分自身である。

「え？　俺？」

　ディーンの言葉に対し、アレンは大きく頷いた。

「そうだ。ディーンがほしい」

　アレンの手がディーンの頬を撫ぜる。

　宝物に触れるような優しい手つきではあるが、逃がすつもりはないのだろう。

「結婚しよう。そうすれば、なにもかも、黙っていてやる」

　アレンの目には迷いはなかった。

　これは提案ではない。

　断れば、侯爵家に関わる人間すべてが路頭に迷うことになりかねない脅迫だ。

　それをわかっていても、ディーンは素直に頷けなかった。

　……プロポーズか？

　脅迫交じりのプロポーズなど聞いたこともない。

　……浮いた噂がない奴だとは思っていたが、同性愛者だったのか。

　不思議と納得してしまう。

　大公子という立場にもかかわらず、婚約者はいない。

　それならば、適当な女性と遊んでいるのかといえば、そのような噂を聞いたこともない。

「ディーン。俺だけのものになってくれるよな」

　アレンは拒絶をされないとわかっているような言い方だった。