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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

01-8.

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 心に抱いた淡い期待はアレンには伝わらなかったらしく、振りほどけないようにとさらに力を込められてしまった。

「楽な話し方で構わない」

 アレンの目にはディーンしか映っていないのだろうか。

 待ちに待っていた日が来たかのような振る舞いをしていた。

「……それなら、お言葉に甘えて、そうする」

 ディーンは恐る恐る返事をする。

 機嫌を損ねるわけにはいかなかった。

 下手なことをしてしまえば、侯爵家の悪事が世間に知られることになる。

「あぁ。そうしてくれ。ところで、この爺さんはディーンの付き添いか?」

「そうだが」

「帰してくれ。俺はディーンだけと話をするつもりで手紙を送ったんだ」

 アレンの言葉に対し、セバスは何も言わない。

 セバスが仕えているのは侯爵家であり、公爵家よりも格上の存在であるアレンの言葉には反応をする必要はないと考えているのだろうか。

「わかった。セバス。先に戻っていてくれ」

「かしこまりました。ディーン坊ちゃま。お帰りの際は、侯爵邸にご連絡をしてくださいませ。すぐに迎えに参ります」

 セバスは丁寧にお辞儀をする。

 それに対し、ディーンが返事をする前にアレンが動いた。

「必要ない」

 拒絶の声をあげる。

 低い声だった。

 周囲を威嚇するようなアレンの声を聞き、寒気が走る。

「ディーンの世話は俺が責任を持つ。後日、改めて手紙を送ることにしよう」

 アレンの言葉を聞き、セバスは首を傾げた。

 ……は?

 ディーンもアレンの意図を理解できなかった。

 まるで大公邸に数日滞在するかのような発言だが、ディーンにはそんな予定はない。話を解決次第、帰宅するつもりだった。

「いや、俺は――」

「ディーン。手紙の内容を忘れたのか?」

 アレンの言葉を聞き、ディーンは反射的に口を閉じる。

 ……監禁でもするつもりか?

 脅迫状を思い出してしまった。

 ディーンにアレンの言葉を否定する権利はなかった。

「アレンの言葉に従ってくれ。セバス。父上にも、俺がアレンの元に遊びに行ったと伝えてくれれば構わない」

 ……セバスを追い返さないと、手紙をばらされかねないな。

 なぜ、そこまでしてディーンと二人になることにこだわるのか。

 ディーンは心当たりがなかったものの、アレンの言葉に歯向かわければならない理由もなかった。
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