悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

佐倉海斗

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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

01-3.

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「坊ちゃま付きの御者は休みとなっておりましたので、坊ちゃまさえよろしければ、セバスが馬車を動かしましょうか」

 セバスの言葉を聞き、ディーンは少しだけ悩んだふりをした。

 ……勘のいいやつだ。

 セバスは、ディーンの為だけにつけられた専属執事の一人だ。

 ……それとも、父上に俺を監視するように言い付けられているのか。

 病死した母親のように死なれることを恐れている父親が厳選しただけあり、執事以外の仕事も問題なくこなしてしまう有能な人材である。

 馬車を扱うことくらい、なにも問題はないだろう。

「いいだろう。御者の仕事もしてみろ」

「お任せください」

「俺が用事を済ませている間は自由にしろ。セバスの気に入りの店のすぐ傍だったはずだからな」

 鞄の中に入れた紙切れをセバスに渡す。

 脅迫状の中に同封されていたものだ。

 恐らく、馬車で移動をすることになるだろうと見越した上で、指定時間と場所だけを書いた紙を入れてあったのだろう。

「おや、珍しい。ご学友と会われるのですか?」

「まあ、そんなところだ」

 ディーンは適当に相槌を打つ。

 それ以上は詮索をしてこなかった。

 すれ違う使用人たちが無言のまま、頭を深々と下げ、ディーンが立ち去るのを確認してから行動をする。

 その光景に対してなにも感情を抱かない。

 いつも通りの光景だった。

 いつも通りの振る舞いだった。

 ……なんだろう。

 心の奥底で違和感を抱く。

 家族のことを思い出したりしていたからだろうか。

 ……母上がいたら、なんて、おっしゃられたんだろうか。

 十七年前に息を引き取った母親のことをはっきりと覚えていない。

 ただ、宝物を扱うように優しく抱きしめられたことだけは覚えている。


「……母上の部屋は今も掃除を続けているのか?」

 ふと、気になったことを口にしてしまう。

 アリシアの部屋に立ち入るのには、父親の許可が必要である。

 家族以外では、父親が厳選した使用人だけが出入りすることを許されている。
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