悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０１－１．悪役令息の元に脅迫状が届いた

　ディーン・ウォートンは頭を抱えていた。

　机の上には封を切られた手紙がある。

　悪名高いウォートン侯爵家の次男であるディーンに対して送られてきた手紙の内容は、恋文ではなく、脅迫状だった。

　その内容に目を通してしまったからこそ、ディーンは頭を両手で抱え、自分自身の今までの言動を嘆いていたのだろう。

　……どうするべきか。

　今頃、王宮で宰相として働いているはずの父親に連絡をするべきだろうか。

　いや、そのような連絡をした途端に業務を投げ打ってでも、邸宅に帰還しようとする父親の姿が目に浮かぶ。

　宰相として敏腕な腕を振るってはいるものの、家族に対してはその姿は情けのないものになる。

　それを知っているからこそ、ディーンは父親に頼るという手段を脳内で切り捨てた。

　……兄上に心配はかけたくはないし。

　日頃の行いについて文句を言われることだろう。

　特に、兄のブライアンはディーンの行動を妨害しようすることが多い。

　今回もブライアンが忌み嫌っている妹、ヘンリエッタを庇うために引き起こしたものが原因となり、脅迫を受けていると打ち明けた途端に豹変するのは目に見えている。

　……いや、兄上が心配するのは俺のことだけか。

　ブライアンとヘンリエッタの仲は最悪だ。

　血の繋がっている家族とは思えないほどに冷え切った視線を向けるヘンリエッタに対し、ブライアンは孤児を屋敷に入れたのは誰だと、ヘンリエッタに聞こえるように話し始めるのが彼らの日課のようなものだった。

　ブライアンはヘンリエッタを家族として認めていない。

　その為、ディーンがいくつも言い訳を並べたとしても、すべての責任はヘンリエッタにあると決めつけ、糾弾するだろう。

　……ヘンリエッタに罪を擦り付けようとするくらいだ。

　ヘンリエッタに罪はない。

　ディーンの手元にある脅迫状の内容は、すべて、ディーンの手によって行われたものである。

「はぁ。どうしたものか」

　……チャーリーは論外だな。

　二歳下の弟、チャーリーに相談をしたところで問題を増やすだけだろう。