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「一章」
はじまり
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ダーリンダンス
今日も無い。私のことを好きだと言う誰かの存在も、白いご飯の上に乗せたい、温かな目玉焼きも何も無い世界を私は生きる。朝、目が覚めて身体を起こす前はきまって一日の中で一番気分が悪くなる。いつからか始まってしまった生きることへの嫌悪感はやはり今日も健在である。
重い腕を動かして手に取った携帯には友達から沢山ラインが来ているけど、高校なんて別に毎日行かなくていいか、と枕にまた顔を埋めた。脳が温かな夢の世界へ誘われ始めたけれど、テリン、と小さく通知の音がして心臓が大きく揺れた。鈴の音のような音はきまってツイッターの通知。そして人のことをあまり深く知りすぎたくない私が唯一通知を取っている相手というのが…。
「おはよう!昨日は深夜枠なのにみんな来てくれてありがとうε-(/・ω・)/今日もバイト終わったら一時間ぐらい配信するかも!きてね!」
ツイッターのアプリを開いてその内容を確認して、思わず頬に両手を添えてしまった。
私の、私のだいすきなツイキャス配信者のネオくん。私はネオくんの閲覧が三十人いない頃からの生粋の大ファンで、声ももちろん、少しリスナーにタラシなところとか一昨日ツイートされた自撮りで見た最高にカッコイイアッシュグリーンの髪の毛も、その一ヶ月前に見た少し暗めの金髪も、全部全部だいすき!
「本当すき……」
思わずうっとりとした声を漏らしながらいつものようにかわい絵文字を沢山使ったリプライを送る。
「ネオくんおはよう( *ˊᵕˋ)ノ🤍昨日の配信、途中からめちゃくちゃねむそうだったの最強にかわいかった~(♡)今日もネオくんの声聴くために学校がんばってくるよう♡」
送信のボタンをタップする時はいつも心臓がドキドキする。病気とかの時の不快なドキドキじゃなくて、気になる人と廊下ですれ違った時のような心地のいいドキドキ、これがたまんない。
足を布団でバタバタさせてきた時アプリに通知が一件来て、ん?と反射的に開いてみた。
「え、嘘でしょ!?!!!」
「Annaちゃんおはよう~!いつも枠来てくれたり沢山リプくれてありがとね(*´∀`*)b学校がんばって!」
「ちょっとちょっとちょっと誰か!!!」
歓喜の声をあげてもシングルファーザーの父親は女のところに行ってるから誰からも反応はされない。涙が出そうで、興奮と顔の高揚が止まらなくて、私は何度も何度もそのリプライを確認した。ネオくんが私のために考えてくれた返信。他の子にはしてないのに、「私だけ」に。
このことを誰かに伝えたくて、気持ちがどうしようもなくて、私は一瞬で用意を済ませると学校の黒いローファーを履いてマンションを飛び出した。
「今日は人生で一番いい一日かもしれない!」
いつの間にか閲覧が三桁を超えたネオくん。でも毎日沢山コメントを打って、沢山好きって伝えればちゃんと見て、愛を返してくれる。
「栞、千夏!」
学校について友達の名前を呼ぶと「今日は朝から?珍らし~笑」と机の上に脚を乗せていた栞と千夏が、面白がるようにこっちを見て目を細めた。栞の香水と千夏の香水が混じりあって鼻の上で本当に甘ったるい。
「今日ね!今日ね!」
そこであ、と思い出す。私はネオくんのことをこの二人にどう伝えればいいのだろう。
この二人はきっと友達ではない。
今日も無い。私のことを好きだと言う誰かの存在も、白いご飯の上に乗せたい、温かな目玉焼きも何も無い世界を私は生きる。朝、目が覚めて身体を起こす前はきまって一日の中で一番気分が悪くなる。いつからか始まってしまった生きることへの嫌悪感はやはり今日も健在である。
重い腕を動かして手に取った携帯には友達から沢山ラインが来ているけど、高校なんて別に毎日行かなくていいか、と枕にまた顔を埋めた。脳が温かな夢の世界へ誘われ始めたけれど、テリン、と小さく通知の音がして心臓が大きく揺れた。鈴の音のような音はきまってツイッターの通知。そして人のことをあまり深く知りすぎたくない私が唯一通知を取っている相手というのが…。
「おはよう!昨日は深夜枠なのにみんな来てくれてありがとうε-(/・ω・)/今日もバイト終わったら一時間ぐらい配信するかも!きてね!」
ツイッターのアプリを開いてその内容を確認して、思わず頬に両手を添えてしまった。
私の、私のだいすきなツイキャス配信者のネオくん。私はネオくんの閲覧が三十人いない頃からの生粋の大ファンで、声ももちろん、少しリスナーにタラシなところとか一昨日ツイートされた自撮りで見た最高にカッコイイアッシュグリーンの髪の毛も、その一ヶ月前に見た少し暗めの金髪も、全部全部だいすき!
「本当すき……」
思わずうっとりとした声を漏らしながらいつものようにかわい絵文字を沢山使ったリプライを送る。
「ネオくんおはよう( *ˊᵕˋ)ノ🤍昨日の配信、途中からめちゃくちゃねむそうだったの最強にかわいかった~(♡)今日もネオくんの声聴くために学校がんばってくるよう♡」
送信のボタンをタップする時はいつも心臓がドキドキする。病気とかの時の不快なドキドキじゃなくて、気になる人と廊下ですれ違った時のような心地のいいドキドキ、これがたまんない。
足を布団でバタバタさせてきた時アプリに通知が一件来て、ん?と反射的に開いてみた。
「え、嘘でしょ!?!!!」
「Annaちゃんおはよう~!いつも枠来てくれたり沢山リプくれてありがとね(*´∀`*)b学校がんばって!」
「ちょっとちょっとちょっと誰か!!!」
歓喜の声をあげてもシングルファーザーの父親は女のところに行ってるから誰からも反応はされない。涙が出そうで、興奮と顔の高揚が止まらなくて、私は何度も何度もそのリプライを確認した。ネオくんが私のために考えてくれた返信。他の子にはしてないのに、「私だけ」に。
このことを誰かに伝えたくて、気持ちがどうしようもなくて、私は一瞬で用意を済ませると学校の黒いローファーを履いてマンションを飛び出した。
「今日は人生で一番いい一日かもしれない!」
いつの間にか閲覧が三桁を超えたネオくん。でも毎日沢山コメントを打って、沢山好きって伝えればちゃんと見て、愛を返してくれる。
「栞、千夏!」
学校について友達の名前を呼ぶと「今日は朝から?珍らし~笑」と机の上に脚を乗せていた栞と千夏が、面白がるようにこっちを見て目を細めた。栞の香水と千夏の香水が混じりあって鼻の上で本当に甘ったるい。
「今日ね!今日ね!」
そこであ、と思い出す。私はネオくんのことをこの二人にどう伝えればいいのだろう。
この二人はきっと友達ではない。
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