星空(仮)の下で謎解きを

木材あかり

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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

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さっき内線で確認した決定的な物的証拠だ。6つの瞳に見つめられてもじっと目を伏せている主任だったが、その沈黙はすぐに破られた。

「降参だ探偵君。もう言い訳が思いつかないよ」

昇ってきた太陽の下、ばつの悪そうな表情で手を挙げ降伏ホールドアップする主任。俺含め全員の白い目線に晒される。

「だめだよ伯父さん!仕事中に眠ったりしちゃ!」

姪に叱られさらにばつの悪そうな顔になっていく。

「いやお前が言うなよ不真面目代表」

この伯父にしてこの姪ありか。ヘッドマイクを外しながらツッコミをいれる。

「あ、ひどーい! わたしアテンダント業務は真面目にこなしてますー」

「はいはい業務外で不真面目なだけでしたねー。今日の業務はお菓子を食べることでしたっけ?」

「あれは先輩と伯父さんの為を思って……。朴念仁!恩知らず!糖分とれ!」

売り言葉に買い言葉。

わいわいがやがや、言い争う俺たちを置いて尼寺は主任に尋ねる。

「では動機はなんなのでしょう。仕事中に寝てしまいたくなるほど眠くなったのは何故なのですか?」

「確かに。毎日規則正しく生活している主任が仕事中に眠くなるなんて。なんかあったんですか」

家名をいなしながら俺も会話に入る。

「いやあ、昨晩妻と喧嘩してしまってね。喧嘩というか後半は私が一方的に怒られていただけだったがね。それが夜通しだったものだから全然眠れなかったんだよ。本当にすまない。コソっと入ってコソっと出ていけば気付かれないと思ったんだが、こんな大事になるとは」

図らずも主任の家庭での力関係を知ってしまった。お疲れ様です。

「本当に反省してくださいよ。罰として買ってきてもらったダッツは頂きます。尼寺、食っていくか?」

「え! ダッツ?! ニージちゃんずるい! 私も食べる!」

家名が食いつく、が。

「お前は次の投映補助だろ。もう時間だし準備しろ。どうする尼寺?」

恨みがましい顔をチラチラ見ながら尼寺は小さく頷いた。

そしてふと何かを閃いたように顔を上げる。

「最後に一つ思いついたことがあるのですが」

操作卓に向かう主任とがっくり肩を落とす家名、プラネタリウムから出ようとした俺。三人ともなんだと尼寺を見る。

「先ほどのからす座の神話なのですが。からすが怒らせてしまったアポロンは太陽の神様でしたよね」

「そうだが……。ああ、なるほど」

肯定し、言わんとしていることを察する。

「もしかして、津和井主任の奥さんのお名前は――」
「わたし知ってるよ。名前は――」

「陽子さん!」

二重の声と二人の笑い声がドーム内に響く。

「正解。太陽の子で陽子だ。陽子には喧嘩したことちゃんと謝っておくよ。昼はおいしい弁当が食べたいしね」

主任は苦笑しながらそれに答えた。

入口のドアから漏れる光に気付く。雲の晴れ間から日が差してきたようだ。


今日はもう、濡羽色の外套の出番はなさそうですよ。主任。
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