星空(仮)の下で謎解きを

木材あかり

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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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「はて、何の話かな」

状況が掴めていないのかとぼけているのか。後ろ手に扉を閉めてドーム内に入ってきたカール主任。暗いドーム内をまっすぐ操作卓まで進んでこれるのは流石。だからこそ途中退出することができたんだ。

「すみません主任。午前の回の日誌に誤りがありました。途中入場者、途中退場者共に1名です。この1名というのは主任ですね」

じろりと睨んでも主任は涼しい表情。

「私は今、今日初めてプラネタリウムに入ったのだよ。午前の回に入っていたなんて、そんなそんな」

あくまでしらを切り通すつもりらしい。上等。

「では午前の回のプラネタリウムの時、主任がどんな行動をしていたのか順を追って説明していきましょう」

主任とアテンダント2人、3つの視線が集まる。

名探偵というのは推理を披露するとき無意味に歩き回ると聞いたことがあるが、この狭い操作卓では難しそうだ。

「まずこれは推測です。主任は今日とても眠かった。昨夜あまりよく眠れなかったからか。寝起きは悪く弁当を作る時間がなかったから今日の昼は外に食べに出たんだ。違いますか」

「当たらずとも遠からずかな」

薄闇の向こうのその顔から正誤は判断できない。

「続けます。どこかで一睡したいと思った主任は午前の回のプラネタリウムに侵入して一眠りすることにした。通常アテンダントは日の入りのタイミングでドーム内を巡回する。この巡回の後、暗くなってから這入ればアテンダントには気づかれない。黒の外套を着ていればなおさらだ。そう、まるで――」

「まるでからすのように、その姿は闇夜に紛れて見つかりません」
「普段白い恰好をしている叔父さんだからこそ、黒くなれば特定されにくい。だね!」

後の台詞をアテンダント二人に奪われた。

「二の句を継いでくれてありがとよ!」

今のはカッコよく決めるシーンだったのに。二人に悪態をつきつつ主任に向き直る。

「そしてまんまと侵入した主任はすぐに眠りに落ちた。そして番組が終わる前に起きてこっそりドームを出ていった。幸いにも番組は『惑星が奏でる交響曲』。その最後の曲はフィナーレに相応しい激しい曲、かつ映像は真っ暗な宇宙空間。出ていくのは容易だったでしょう。投映後の俺を出迎えた主任は『途中入退場した客はいなかったよ』と言いました。当然ですよね。途中入退場していたのは客ではなく職員だったんだから。それに監視者自身が侵入者なら、こんなの密室でもなんでもない」

一通りの推理を聞いたカール主任は閉ざしていた口を開く。
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