25 / 28
プラネタリウムは密室(仮)ですか?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
しおりを挟む
「はて、何の話かな」
状況が掴めていないのかとぼけているのか。後ろ手に扉を閉めてドーム内に入ってきたカール主任。暗いドーム内をまっすぐ操作卓まで進んでこれるのは流石。だからこそ途中退出することができたんだ。
「すみません主任。午前の回の日誌に誤りがありました。途中入場者、途中退場者共に1名です。この1名というのは主任ですね」
じろりと睨んでも主任は涼しい表情。
「私は今、今日初めてプラネタリウムに入ったのだよ。午前の回に入っていたなんて、そんなそんな」
あくまでしらを切り通すつもりらしい。上等。
「では午前の回のプラネタリウムの時、主任がどんな行動をしていたのか順を追って説明していきましょう」
主任とアテンダント2人、3つの視線が集まる。
名探偵というのは推理を披露するとき無意味に歩き回ると聞いたことがあるが、この狭い操作卓では難しそうだ。
「まずこれは推測です。主任は今日とても眠かった。昨夜あまりよく眠れなかったからか。寝起きは悪く弁当を作る時間がなかったから今日の昼は外に食べに出たんだ。違いますか」
「当たらずとも遠からずかな」
薄闇の向こうのその顔から正誤は判断できない。
「続けます。どこかで一睡したいと思った主任は午前の回のプラネタリウムに侵入して一眠りすることにした。通常アテンダントは日の入りのタイミングでドーム内を巡回する。この巡回の後、暗くなってから這入ればアテンダントには気づかれない。黒の外套を着ていればなおさらだ。そう、まるで――」
「まるでからすのように、その姿は闇夜に紛れて見つかりません」
「普段白い恰好をしている叔父さんだからこそ、黒くなれば特定されにくい。だね!」
後の台詞をアテンダント二人に奪われた。
「二の句を継いでくれてありがとよ!」
今のはカッコよく決めるシーンだったのに。二人に悪態をつきつつ主任に向き直る。
「そしてまんまと侵入した主任はすぐに眠りに落ちた。そして番組が終わる前に起きてこっそりドームを出ていった。幸いにも番組は『惑星が奏でる交響曲』。その最後の曲はフィナーレに相応しい激しい曲、かつ映像は真っ暗な宇宙空間。出ていくのは容易だったでしょう。投映後の俺を出迎えた主任は『途中入退場した客はいなかったよ』と言いました。当然ですよね。途中入退場していたのは客ではなく職員だったんだから。それに監視者自身が侵入者なら、こんなの密室でもなんでもない」
一通りの推理を聞いたカール主任は閉ざしていた口を開く。
状況が掴めていないのかとぼけているのか。後ろ手に扉を閉めてドーム内に入ってきたカール主任。暗いドーム内をまっすぐ操作卓まで進んでこれるのは流石。だからこそ途中退出することができたんだ。
「すみません主任。午前の回の日誌に誤りがありました。途中入場者、途中退場者共に1名です。この1名というのは主任ですね」
じろりと睨んでも主任は涼しい表情。
「私は今、今日初めてプラネタリウムに入ったのだよ。午前の回に入っていたなんて、そんなそんな」
あくまでしらを切り通すつもりらしい。上等。
「では午前の回のプラネタリウムの時、主任がどんな行動をしていたのか順を追って説明していきましょう」
主任とアテンダント2人、3つの視線が集まる。
名探偵というのは推理を披露するとき無意味に歩き回ると聞いたことがあるが、この狭い操作卓では難しそうだ。
「まずこれは推測です。主任は今日とても眠かった。昨夜あまりよく眠れなかったからか。寝起きは悪く弁当を作る時間がなかったから今日の昼は外に食べに出たんだ。違いますか」
「当たらずとも遠からずかな」
薄闇の向こうのその顔から正誤は判断できない。
「続けます。どこかで一睡したいと思った主任は午前の回のプラネタリウムに侵入して一眠りすることにした。通常アテンダントは日の入りのタイミングでドーム内を巡回する。この巡回の後、暗くなってから這入ればアテンダントには気づかれない。黒の外套を着ていればなおさらだ。そう、まるで――」
「まるでからすのように、その姿は闇夜に紛れて見つかりません」
「普段白い恰好をしている叔父さんだからこそ、黒くなれば特定されにくい。だね!」
後の台詞をアテンダント二人に奪われた。
「二の句を継いでくれてありがとよ!」
今のはカッコよく決めるシーンだったのに。二人に悪態をつきつつ主任に向き直る。
「そしてまんまと侵入した主任はすぐに眠りに落ちた。そして番組が終わる前に起きてこっそりドームを出ていった。幸いにも番組は『惑星が奏でる交響曲』。その最後の曲はフィナーレに相応しい激しい曲、かつ映像は真っ暗な宇宙空間。出ていくのは容易だったでしょう。投映後の俺を出迎えた主任は『途中入退場した客はいなかったよ』と言いました。当然ですよね。途中入退場していたのは客ではなく職員だったんだから。それに監視者自身が侵入者なら、こんなの密室でもなんでもない」
一通りの推理を聞いたカール主任は閉ざしていた口を開く。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる