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プラネタリウムは密室(仮)ですか?
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「こちらも一つお聞きしますが、プラネタリウムの出入り口は全部でいくつありますか?出口は正面向かって左手側一ヶ所と決まっていますが。それ以外の扉からも出られるのではないでしょうか」
調子を戻した尼寺。その指摘は当然だ。入った客は28人、投映後に出た客は27人。では投映中に退出したと考えるのが普通である。
「プラネタリウムの出入り口は3つ。1つ目は正面向かって右手側、通常入口として使っている扉。2つ目は後ろ側、操作卓の裏の扉。そして3つ目が出口、正面向かって左手側の扉」
「そのいずれかから投映中誰にも気づかれずに抜け出すことは可能ですか?」
「不可能ではないが難しくはある。まずは右手側の扉、入口と呼ぼうか。入口はここ準備室のガラス窓から丸見えだ。ほら、そこからでも見えるだろ?」
尼寺が座っている席からはガラス窓が、その向こうの入口が丸見えなはず。
「で、さっきの回の投映中はこの準備室でカール主任がずっと事務作業をしていた。投映後に主任に聞くと『途中入退出客はいなかった』そうだ」
「カール主任というのは?」
聞き慣れぬ名前に尼寺は首を傾げる。
「宇宙チームのリーダー、津和井主任のことだよ! わたしの伯父さん。おいしいコーヒーや紅茶を淹れてくれるんだ」
「ああ、あの真っ白な方ですね」
ロマンスグレーで白スーツはやはり印象深いらしい。
「つーことで入口から出た可能性はなし。次の可能性は操作卓の裏の扉、裏口。通常は職員専用の出入り口だが鍵は掛かっていない。出入りしようと思えばできるが、操作卓にいる俺が気付かないわけがない。もちろん前回の投映中この出入り口を使った奴はいなかったよ」
「残るは左手側、通常の出口ですか。この扉の前にはニージちゃんが座っていたのでここからも出ることができないですね」
「寝落ちしている間に出ていったかもしれないけどな」
視線を向けると少しだけ罰の悪そうな顔色を示す。
「申し訳ありません。ほんの2,3分ほどだと思いますが、その可能性はあるかもしれません」
「いいや大丈夫だ。投映終了の5分くらい前からずっと出口を見ていたからな。出ていった客はいなかった」
「どうしてまた出口をじっと見張っていたんです?」
この質問は家名。
「尼寺は初めてのプラネタリウムだったからな。アテンダントは扉を開ける為、先に扉前に待機していなければならない。そのタイミングを心配してな。まあちゃんと時間通りに扉は開いたから心配は不要だったみたいだが」
「……ということは投映中に誰にも気づかれずプラネタリウムも中から出るのは不可能ってことですか?」
尼寺がまとめて言う。そう、論理的には不可能なのだ。
「現時点ではそう言うしかないが、少し気になることもある。続きは次のプラネタリウムの投映後に話そう。家名、準備に行くぞ」
時計を見ると次の投映の準備に行かねばならない時間だった。
「はいはい了解です。あ、ニージちゃん午後はフリーだったよね。次のプラネタリウム入らない?番組は『星空探偵の大冒険』だよ」
「拝見させて頂きます。あと本物の“星空探偵”の仕事ぶりの方もです。私の疑問を解決していただけるのか」
「そいつはプレッシャーを感じるな。まあ何はともあれ行こうか。星空(仮)の下に」
調子を戻した尼寺。その指摘は当然だ。入った客は28人、投映後に出た客は27人。では投映中に退出したと考えるのが普通である。
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「で、さっきの回の投映中はこの準備室でカール主任がずっと事務作業をしていた。投映後に主任に聞くと『途中入退出客はいなかった』そうだ」
「カール主任というのは?」
聞き慣れぬ名前に尼寺は首を傾げる。
「宇宙チームのリーダー、津和井主任のことだよ! わたしの伯父さん。おいしいコーヒーや紅茶を淹れてくれるんだ」
「ああ、あの真っ白な方ですね」
ロマンスグレーで白スーツはやはり印象深いらしい。
「つーことで入口から出た可能性はなし。次の可能性は操作卓の裏の扉、裏口。通常は職員専用の出入り口だが鍵は掛かっていない。出入りしようと思えばできるが、操作卓にいる俺が気付かないわけがない。もちろん前回の投映中この出入り口を使った奴はいなかったよ」
「残るは左手側、通常の出口ですか。この扉の前にはニージちゃんが座っていたのでここからも出ることができないですね」
「寝落ちしている間に出ていったかもしれないけどな」
視線を向けると少しだけ罰の悪そうな顔色を示す。
「申し訳ありません。ほんの2,3分ほどだと思いますが、その可能性はあるかもしれません」
「いいや大丈夫だ。投映終了の5分くらい前からずっと出口を見ていたからな。出ていった客はいなかった」
「どうしてまた出口をじっと見張っていたんです?」
この質問は家名。
「尼寺は初めてのプラネタリウムだったからな。アテンダントは扉を開ける為、先に扉前に待機していなければならない。そのタイミングを心配してな。まあちゃんと時間通りに扉は開いたから心配は不要だったみたいだが」
「……ということは投映中に誰にも気づかれずプラネタリウムも中から出るのは不可能ってことですか?」
尼寺がまとめて言う。そう、論理的には不可能なのだ。
「現時点ではそう言うしかないが、少し気になることもある。続きは次のプラネタリウムの投映後に話そう。家名、準備に行くぞ」
時計を見ると次の投映の準備に行かねばならない時間だった。
「はいはい了解です。あ、ニージちゃん午後はフリーだったよね。次のプラネタリウム入らない?番組は『星空探偵の大冒険』だよ」
「拝見させて頂きます。あと本物の“星空探偵”の仕事ぶりの方もです。私の疑問を解決していただけるのか」
「そいつはプレッシャーを感じるな。まあ何はともあれ行こうか。星空(仮)の下に」
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